愛も憎しみも、罪の形第1話
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初めて藤原彰真(ふじわらしょうま)に会ったとき、私は思った。
「この世にこんなに美しい人がいるなんて」
そして、こう決めた。
「大人になったら絶対彼と結婚する」
最後に彰真に会ったとき、私は言った。
「おじさん、もう二度と会わないで。私、あなたを殺したくなっちゃうから」
彼は静かに答えた。
「梨乃(りの)、俺なら、君に殺されてもいい」
* * *
彰真に初めて会ったのは、母さんの結婚式だった。
司会者に無理やり挨拶を促され、私は場を見渡した。
目の前には不倫相手との結婚に晴れ晴れと微笑む母と、妻を亡くしたばかりで再婚を決めた桐生雅貴(きりゅう まさたか)だった。
その光景に、私はこう言い放った。
「では、この不義のカップルが末永く幸せであることを祈りましょう!」
会場はざわめき、まばらな拍手が響いた。
その中で、一際目立つ声が聞こえた。
そちらに目を向けると、喪服姿の少年が微笑みながら立っていた。
その姿に、私の頭にはこう浮かんだ。
「目立ちたければ、喪服を着ろってね」
どうして今日が、私たちの結婚式じゃないんだろう――
そんな厚かましいことを考えた。
少年の目元には怒りが滲んでいたけれど、それでも信じられないくらい美しかった。
「彰真、梨乃はまだ子どもだからともかく、お前が騒ぐのはどういうつもりだ?」
雅貴が彼を叱責したが、私はまだ彼の正体を知らなかった。ただ、それに腹が立った。
「そっちがそんな破廉恥なことをするなら、私たちが騒いでもいいでしょ?その亡くなった奥さんの親族が大人しいだけで、私が彼女の家族だったら、もっと大騒ぎしてる!」
そう言って、私は得意げに彰真の方を振り返った。でも、彼の顔は真っ青になっていた。
何があったのかと困惑していると、背後から母の冷たい声が聞こえた。
「その亡くなった奥さんの家族なら、今、目の前にいるわよ。梨乃、よく見て。あなたが見ているその人が彼女の弟よ」
生まれて初めて、守りたいと思った人ができた。しかも、敵のような相手を。
私はただただ混乱していた。
結婚式場から警備員に引きずり出され、私は未だに呆然としていた。
夜になって、母が牛乳を持って部屋にやってきた。現実に引き戻されるようだった。
「一日中騒いで、まだ寝ていないの?疲れない?」
朝の新妻らしい輝きは消え、今の母は目に見えて疲れ果てていた。
それを見て、私は心の中で自分を褒めた。これで父の仇を少しは取れた気がする、と。
「梨乃、これまであなたを守れなかったのは母さんの責任よ。でも、信じて欲しいの。母さんには――」
「事情があったってことでしょ?」
母が長々と語ろうとするのを、私は冷たく遮った。
しばらく沈黙が続いた後、母が再び口を開いた。
「梨乃、母さんは不倫相手じゃない。誰が何を言おうと、それだけは信じて欲しい」
そう言って、母は腰を深く折り、全力で何かを訴えるような姿だった。
でも、私はその言葉も姿勢も理解できなかった。
だからまた、冷たく答えた。
「誤解してないよ。事実だもん、違う?」
母の目が赤くなったのを見て、一瞬だけ動揺した。
しかし、そのタイミングでノックの音が聞こえた。
雅貴が、強制的に連れてきた彰真を押し出すようにして部屋に入ってきた。
「彰真、美沙(みさ)に謝りなさい」
場が再び静まり返る。
「お前の姉さんが亡くなった後も彼女を――」
「すみません!」
彰真は深々と頭を下げ、母に謝罪した。その時、涙が白い床に落ちるのを私は確かに見た。
私はその涙を、一晩かけて胸に刻み込んだ。
彼も私と同じなのだろう、と。
大切な人のために、「仇」と親しくするのを耐え忍んでいるのだと。
その後、半月ほどかけて、私はある現実を飲み込んだ。
それは、雅貴の亡くなった妻が、彰真にとって唯一の家族だったということ。
つまり、彼が成人するまで、私はこの大きな別荘で彼と暮らすことになる。
もちろん、私たち二人にとって「不愉快なカップル」も一緒だけど。
「梨乃、これから彰真のことは『おじさん』と呼びなさいね」
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