愛は空虚に、妄念は砕け散る第3話
この話は約1729字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
一字一句がまるで刃物のようだった。
その刃が穴だらけの私の心臓を切り裂いていく。
痛みとは、ここまでの段階に達するものなのだと初めて知った。
その瞬間心が完全に死んだ気がした。
「紗也乃、どうして帰ってきたの?」
玄関のドアを開けた中村香織は、驚愕した顔で立ち尽くした。
まるで、私がこの家の押しかけ客であるかのような態度だった。
「ここは私の家よ。帰ってくるのにあなたに許可を取る必要があるの?」
「そんなつもりじゃ……」
中村香織は、目に涙をためて儚げな表情を浮かべた。
私は彼女の安っぽいバッグを掴み、それを彼女の足元に投げつけた。
「これ、持って出て行って」
「きゃっ! 痛い!」
中村香織は突然、足の指を抑えて身をかがめた。
翔太は何も言わずに私の肩を乱暴に押した。
「紗也乃!いい加減にしろよ!どれだけ怒っていても、バッグを投げて当てるなんてひどすぎる!」
私は押されてふらつき倒れそうになったところを悠斗が前に出てきて止めた。
だが彼の言葉は私をかばうものではなかった。
「紗也乃、怒りがあるなら俺たちにぶつけろ。でも香織にはやめてやれ。彼女はもう十分苦しんでるんだ」
彼女が可哀想だって?じゃあ私は?
山で低体温症になったとき、心臓が痛み、体が震えながらも二人に助けを求めたときは?
そのとき二人は、顔色ひとつ変わらない中村香織を抱きしめていただけだったじゃないか。
病院で昏睡状態だった間、中村香織はSNSに何枚もの写真を投稿していた。
それは二人が彼女と一緒に食事をし、遊び、笑っている写真ばかりだった。
「ありがとう、二人がいてくれて」「あなたたちの愛に感謝してる」「すべてを与えてくれたことに感謝してる」
その投稿の言葉一つ一つが、私の目に突き刺さった。
かつてそれらは、すべて私のものだったのに。
「中村香織。私のお金で食べて、私の買った服を着て、最終的には私の人間関係まで奪うつもり?次は私の両親を奪うつもり?」
出院したばかりの身体は、この怒りと悲しみに耐えられなかった。
心臓の痛みが再び襲い、私は胸を押さえながらその場に倒れ込んだ。
悠斗の目が見開かれた。
「紗也乃!」
翔太も慌てて駆け寄ってきた。
「紗也乃!」
だが二人が私に近づこうとしたその瞬間、中村香織が泣き叫んだ。
「ごめんなさい!私が現れたのがいけなかったの!私なんて死ねばいい!私は罪人よ!」
「どうせ私の父親は中村家の運転手でしかなかった!彼が死んだのは彼の運命のせいであって、紗也乃のせいじゃないの!」
彼女は顔を覆って泣き続けた。
悠斗の私に差し伸べられた手が止まり、彼は振り返って中村香織を抱きしめた。
彼のこめかみには珍しく青筋が立っていた。
「紗也乃、お前って本当に悪辣だな。金も地位もあるからって、それを理由に香織を傷つけるなんて最低だ」
「お前なんか、ちょっと寒い思いをしただけだろう?でも香織は父親を失ったんだぞ!」
翔太も声を荒げて怒鳴った。
「早く香織に謝れよ!」
心臓の痛みがどんどん酷くなり、私はほとんど意識を失いかけていた。
震える手で翔太に助けを求めた。
二人は私の病気のことを知っている。
これまで発作を起こすたび、彼らは動揺し、絶対に私を怒らせないと誓ったこともある。
だが、翔太は私の手を力強く払いのけ、まるで犯罪者でも見るような目つきで私を睨みつけた。
「謝れって言ってんだよ!また何かやらかそうとしてるのか?」
悠斗も震える中村香織を抱きしめながら冷たく言い放った。
「紗也乃、もう芝居はやめろよ。香織はこんなに自分を責めてるのに、お前は人のせいにばかりしてる。少しは優しさを持て」
私が彼らに助けを求めるなんて、間違っていたんだ。
生き延びたい気持ちで、なんとかソファまで這い戻り、救心丸の瓶を開けた。しかし、中は空っぽだった。今日、病院を出るときに薬を持って帰るのを忘れてしまったのだ。
胸を押さえながら私は丸く縮こまった。
そのときになってようやく、二人は私が芝居をしていないことに気づいた。
近寄ろうとした二人を制するように、中村香織が再び声を上げて泣いた。
二人の表情が一瞬で変わった。
更に翔太は指を私に突きつけて怒鳴りつけた。
「自業自得だ!お前がそんなに心の狭い性格だから、いつも心臓が痛むんだよ!全部、自分のせいだ!」
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