愛は流星のように、銀河へと消えていく第3話
この話は約1873字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
車内の空気は灼けるように熱く、和沙の一呼吸ごとに、まるで焼けた砂利を喉に流し込んでいるようだった。
「助けて……」
彼女は必死に窓を叩く。
閉ざされた車内は蒸し風呂のように、温度がどんどん上がっていく。
高熱で意識はぐらぐらと揺れ、息苦しさは限界を越えようとしていた。目の前の景色がぼやけていく。
彼女は窓を割るために、手探りで何か硬いものを探した。
指先に触れたのは、心美が後部座席に投げ捨てた「永遠に離れない」置物だった。
一瞬、手が止まる。次の瞬間、震える腕でそれを振り上げ、全力で窓に叩きつけた。
ガン、ガン、と鈍い音が車内に響く。
ようやく、窓に小さなヒビが入った。
その衝撃で、置物もひび割れ始めた。
鋭利な破片が手のひらに突き刺さり、血が滲み出した。
彼女はもう痛みなど感じなかった。歯を食いしばり、ひたすら叩き続ける。
そして澄んだ破裂音とともに、人形は完全に壊れ、車の窓ガラスも蜘蛛の巣のようにひび割れた。
残された力を振り絞り、彼女は肘で窓に体当たりした。
ガシャッ
ガラスが割れ、外の空気が一気に流れ込んでくる。一瞬、意識がはっきりした。
和沙は手足を使い、惨めな姿で狭い窓の破れ口から這い出し、地面に転がり落ちた。
全身はすでに冷や汗でびしょ濡れ。彼女は激しい息遣いで、よろめきながら立ち上がる。
高熱と窒息感で全身の力が抜け、足元は綿のようにふらついていた。
焼けるように熱い車体に手をついて、彼女はふらつきながら歩き始めた。
だが数歩進んだところで、視界が大きく揺らぎ、真っ暗になった。
意識の最後、遠くで救急車のサイレンが聞こえたような気がした。
意識が光と闇のあわいを漂う。
耳元で、誰かの焦った声がかすかに聞こえる。
「……体温が異常に高い。熱中症による高熱性けいれん、呼吸と循環に異常あり。緊急です。
ご家族の方は?署名が必要です。
お嬢さん、聞こえますか?ご家族の連絡先を教えてください」
朦朧とした中、乾いた唇がかすかに動いた。つい、ひとつの電話番号を無意識に呟いた。
「宗太……」
再び目を開けたとき、見えたのは真っ白な天井だった。そしてその視界の中に、うっすらと無精髭が浮かんだ、憔悴した宗太の顔が現れた。
彼は和沙が目を覚ましたのを見るや否や、安堵と喜びが入り混じった目で、彼女を抱きしめようと手を伸ばした。
「和沙、目が覚めたか?」
反射的に、彼女は顔をそむけ、彼の手を避けた。
宗太の手が空中で硬直し、心配そうな表情も一瞬で凍りついた。
慌てて、謝罪の言葉が飛び出した。
「ごめん、和沙、本当にごめん……
一日中眠ってて、もう二度とこんな怖い思いさせないでくれ」
宗太は潤んだ目で彼女を見つめ、声もわずかに震えていた。
「全部、俺のせいだ……心美の犬が動物病院で驚いて、裏口から逃げちゃって……
パニックになって探しに行って……いつドアがロックされたのか、本当に気づかなかったんだ……」
彼女は無表情のまま、その言い訳を聞いていた。
「そう、心美の犬を探している間に、私はあなたの車の中で死にかけてた」
彼女の白くなった顔と、包帯で厚く覆われた手のひらを見て、宗太の胸が締めつけられる。
「本当にごめん、全部俺が悪い」
彼は彼女のもう片方の手をしっかり握りしめた。
「もう二度とこんなことしない。絶対に君を傷つけたりしない」
だが和沙は黙ってその手を引きはがした。
その冷たい拒絶に、宗太の表情には痛みと罪悪感が浮かぶ。
何かを思い出したように、彼はポケットからジュエリーボックスを取り出した。
中には、二つの人形が寄り添うデザインのネックレスが入っていた。
「君がくれた置物、壊れちゃったから」
彼は少し気まずそうに、でもどこか期待を込めて言った。
「新しいのを用意したんだ。俺たち、また永遠に一緒でいよう?」
彼女の首にかけようとしたその時、彼のスマホの着信音が鳴った。
表示された名前は、心美だった。
宗太の手が止まり、一瞬目をそらす。動揺した視線が和沙へと向けられた。
結局、彼はネックレスを彼女の手にそっと渡し、立ち上がって電話を取りに行こうとした。
病室のドアまで来たところで、彼は振り返った。まるで弁解するように、慌てて口を開いた。
「和沙、分かってるだろ?俺たちの関係、まだ公にできないんだ。だから、あいつとは……もう少しだけ、芝居を続けないといけない。
ちゃんと戻ってくるから、いい子で待っててくれ」
そう言って、足早に病室を後にした。
閉まったドアを見つめながら、和沙は口元に、どこか虚ろな笑みを浮かべた。
そう、芝居。
彼女、和沙は、宗太が世界に見せるための芝居に使っている、ただの道具にすぎなかった。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
R94472- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。