愛は氷点下で死んだ第3話
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一方その頃。久我家のゲストルームでは、蓮が莉奈のベッドの端に腰掛け、甲斐甲斐しく布団を直してやっていた。
莉奈は彼の胸に寄り添い、少し青ざめた顔で儚げな微笑みを浮かべる。「蓮さん、もう平気よ。あまり怒らないで。紬さんもわざとじゃなかったんだし、もう許してあげたら?冷凍倉庫は寒いし、赤ちゃんに何かあったら大変だわ」
「許す?」蓮は冷ややかな目で鼻を鳴らした。「あいつはお前をあんなに苦しめたんだ。簡単に許していいわけがない。骨の髄まで反省させて、二度とお前を傷つけようなどと思わせないようにしないとな」
莉奈の瞳の奥が一瞬、暗い喜びで光った。けれど、彼女はすぐに心配そうな顔を作る。「でも……私なら本当に大丈夫だから。それに、お腹の子は蓮さんの赤ちゃんでしょう?もしものことがあったら、蓮さんが後悔するんじゃないかって心配で……」
「後悔?俺が?」蓮は馬鹿にしたように笑い飛ばした。「俺が子供を欲しいと思えば、産んでくれる女などいくらでもいる。俺にとって重要なのは莉奈、お前だけだ。お前が無事なら、他のことなどどうでもいい」
その言葉に、莉奈は心の中で高笑いをした。彼女は必死に笑みを噛み殺し、しおらしく提案する。「蓮さんがそこまで言うなら……じゃあ、こうしましょう?私の風邪が完全に治ったら、紬さんをあそこから出してあげて。私に土下座して謝ってくれたら、今回のことは水に流すわ」
蓮は少し考えた後、愛おしそうに莉奈の髪を撫でた。「ああ、お前がそう言うなら。お前の体が回復したら、あいつを連れてきて謝罪させよう」
二人がそんな会話をしていることなど、知る由もなかった。冷凍倉庫の中の紬は、限界を迎えていた。
「うっ……あぁ……っ!」お腹を抉られるような激痛が走り、紬はコンクリートの床の上でのたうち回った。まるで無数の刃物で内臓を切り刻まれているようだ。
体温は下がりきり、意識が朦朧としてくる。視界が霞む中で、紬は実家の両親のことを思い出していた。
お父さん、お母さん。今の紬の姿を見たら、どれほど嘆くだろうか。結婚するとき、二人は「久我家の男はやめておけ」と反対した。
それでも紬が押し切ったのは、蓮への愛があったから。もしあの時、別の道を選んでいれば。こんな惨めな最期を迎えることはなかったのに。
「赤ちゃん……ごめんね。ママが馬鹿だったせいで、守ってあげられなくて……」涙はとめどなく溢れ、氷の床に落ちていく。紬は薄れゆく意識の中で、お腹の子に語りかけた。
「もし来世があるなら、ママはもう二度とこんな馬鹿な真似はしない。次は必ず……私たちのことを一番に愛してくれて、大切にしてくれる人のところへ行こうね」
その時だった。足の間に、生温かい液体がドッと流れ出るのを感じた。羊水が、破裂したのだ。絶望が潮のように押し寄せ、紬を飲み込んでいく。こんな極寒の中で羊水が破水してしまえば、未熟な胎児が助かる見込みはない。
必死にお腹を押さえ、流れ出る命を留めようとするけれど、紬にできることは何一つなかった。小さな命の灯火が、冷たい闇の中でフッと消えていくのを感じる。紬の意識もまた、深い闇へと沈んでいった。
意識が途切れる直前、目の前に蓮の顔が浮かんだ。紬を見下ろすその瞳は、どこまでも冷たく、無関心で、刃物のように鋭かった。紬は最後の力を振り絞り、心の中で呪いの言葉を吐き捨てた。久我蓮……私はあなたを恨む。死んでも、絶対に許さない……!
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