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愛は氷点下で死んだ第1話

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たった一度、換気のために窓を開けた。それだけのことで、夫の幼馴染が風邪を引いた。

激怒した夫・久我蓮(くが れん)は、妊娠中の久我紬(くが つむぎ)を屋敷の裏手にある業務用冷凍倉庫へ閉じ込めるよう命じた。

「俺の子を腹に宿しているからといって、莉奈(りな)を虐めていいとでも思ったか?

あいつの髪一本でも傷つけてみろ。百倍にして償わせてやる」

紬はガタガタと震えながら、凍りついたコンクリートの床に頭を擦り付けた。「ごめんなさい、謝るから……!これからは莉奈さんの下僕として何でもする。だから、許して……二度と彼女を傷つけたりしないから!」

けれど、蓮は冷酷な瞳で紬を一瞥し、重厚な鉄の扉を閉ざした。「頭を冷やせ。そうすれば、その腐った根性も少しはマシになるだろう」

ガチャリ、と鍵のかかる音が、紬の運命を断ち切った。

それから一週間後。幼馴染の風邪が完治し、蓮はようやく冷凍倉庫の中の紬を思い出した。

「おい、紬。反省したか?今すぐ莉奈に土下座して謝るなら、ここから出してやってもいい」

……だが、彼は知らない。

氷点下の闇の中で、紬の体はとっくに冷たい塊になっていることを。

彼が「跡取り」として宝物のように大切にしていた小さな命と共に、紬の心臓が永遠に止まってしまったことを。

* * *

「紬のやつ、一体どういうつもりだ!莉奈が生まれつき病弱だと知っていながら窓を開けて冷風に晒すなんて、殺す気か!」

パリーン!久我家の広いリビングに、ガラスの砕け散る音が響き渡った。久我蓮(くが れん)が投げつけた体温計が壁に当たり、無惨な破片となって高級な絨毯の上に散らばる。

その怒声に、メイドたちは縮み上がり、壁際にへばりついて震えていた。見かねた古株の執事・佐久間(さくま)が、決死の覚悟で一歩前へ出る。

「旦那様、恐れながら申し上げます。奥様は、お部屋の空気が淀んでいるのを気にされて、少し換気をなされただけでございます。それに、あの日風は強くありませんでした。園田様が夜更けに布団を蹴ってしまわれたのが、風邪の原因かと……」

「黙れ!」蓮の鋭い一喝が、佐久間の言葉を遮った。その瞳は、氷のように冷たく、憎悪に満ちている。「お前まであの女の肩を持つのか?莉奈は昔から体が弱い。少しの風でも命取りになることを、紬が知らないわけがないだろう!あれは嫉妬だ。俺が莉奈を大切にしているのが気に入らなくて、わざとやったに決まっている!」

彼が何よりも大切にしている「莉奈」とは、園田莉奈(そのだ りな)。蓮とは幼い頃から兄妹のように育った幼馴染だ。

蓮にとって、莉奈は「守るべき無垢な宝物」。対して紬は、家同士の都合で押し付けられた「名ばかりの妻」。その差は、天と地ほどもあった。

「その性悪女を、ここに連れてこい!」

蓮の命令を受け、二人の屈強なボディーガードが久我紬(くが つむぎ)の部屋へと踏み込んでくる。彼女は両脇を抱えられ、引きずられるようにしてリビングへと連行された。

妊娠五ヶ月の腹部は少し膨らみ始めており、ゆったりとしたワンピースを着ていてもその曲線は見て取れる。彼女は必死にお腹を庇いながら、青ざめた顔で訴えた。

「蓮さん、信じて!わざとなんかじゃない……本当に、ただ空気を入れ替えたかっただけで、莉奈さんが風邪を引くなんて思ってもみなくて……」

「思ってもみなかった、だと?」蓮は鼻で笑い、紬との距離を詰める。見下ろすその目には、妻を見る温かさは微塵もなく、まるで汚物を見るような嫌悪感が漂っていた。

「紬。俺の子を妊娠したからといって、図に乗るなよ。俺にとってお前の価値など、莉奈の足元にも及ばない。あいつが高熱で苦しんでいるんだ、お前もそれ相応の代償を払え」

紬は恐怖で足がすくみ、涙が溢れ出した。「ごめんなさい、私が悪かった……二度と窓は開けない。これからはもっと莉奈さんを気遣うから。だからお願い、お腹の子に免じて許して……!」

「許す?」蓮はまるで冗談を聞いたかのように嘲るように笑った。「莉奈が味わった苦しみは、百倍にして返してもらう。おい、こいつを裏の冷凍倉庫へ放り込んでおけ。莉奈の風邪が完治するまで、そこから出すな」

「い、嫌っ!」紬は悲鳴を上げた。裏にある業務用冷凍倉庫は、普段はマイナス二十度以下に設定されている。そんな場所に、身重の体で閉じ込められたらどうなるか。「蓮さん、お願い!あそこは寒すぎる!私だけならまだしも、凍え死んでしまったら、赤ちゃんまで死んでしまう!どうか別の罰にして、何でもするから!」

だが、蓮は紬の必死の訴えなど耳に入らないかのように、冷たく背を向けた。「連れて行け。誰か一人でも情けをかけようとしたら、同罪と見なして処分する」

「嫌ぁああっ!蓮さん、蓮さん……ッ!」ボディーガードに引きずられながら、紬は絶望的な叫び声を上げた。遠ざかっていく夫の背中が、涙で滲んでいく。

結婚して一年。いつかきっと心が通じ合うと信じて尽くしてきたけれど、彼の中に、紬と子供の居場所なんて最初からどこにもなかったのだ。

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