愛は恨みに、永遠の別れを第3話
この話は約2135字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
ずっと適応する心臓が見つからずと思い、修治の体は日に日にやつれていった。
意識がはっきりしている時間も、次第に短くなっていく。
人工心臓の登場を知ったとき、私は胸が高鳴った。
技術はまだ未成熟で、適応できる人はごくわずか。
多くのリスクを抱え、命を落とす可能性さえある。
それでも私は、迷うことなく移植手術の同意書にサインした。
私は自分の心臓を彼に渡し、その代わりに五年しか持たない人工心臓を自分に移植した。
数十万円で、最低ランクの人工心臓を買った。
私は時折、血を吐き、胸を刺すような痛みが走り、数歩歩くだけで息が切れ、体の芯まで冷え切ってしまう。
それでも、私にとってはこれ以上ないほど割の良い取引だった。
……
今では人工心臓の技術も進歩し、人の体により自然で効率的に馴染むようになった。
けれど、私はもうその手術を受けるためのお金がない。
五年という歳月の中で、私は世の冷たさも温かさも味わい尽くした。
死ぬ前に――もう一度だけ、彼に会うことができた。
彼の胸の奥で、私の心臓の鼓動を感じることができた。
それだけで、十分だ。
郊外にある古びたアパートまで歩いて戻ると、すでに辺りは夜の闇に包まれている。
カビの匂いがこもる部屋の扉を押し開けると、湿った冷気が肌を刺し、思わず身震いした。
数平方メートルの狭い空間には、錆びついた鉄製のベッドと、今にも落ちそうな天井の扇風機だけがある。
狭いけれど、なんとか眠れる。
かつて、私と修治はこの場所で身を寄せ合い、生き延びた。そして、ここで実の家族と再会することができた。
お互いなしでは生きていけなかった。
だからこそ、私の心臓が修治を救えると分かったとき――私は泣きながら、彼との兄妹の縁を断ち切ると強く主張した。
修治は18年間、私を守り続けてきた。世の冷たさも、私たちがこれまでどれほど辛い思いをしてきたかも、彼はすべて知り尽くしていた。
私が彼のためにどれほど働き、どれほど自分を削ってきたかも、彼も知っていた。
だからこそ、彼は絶対に私が心臓を差し出すことを許さないのだ。
――私は、やむを得ず卑怯者を演じた。
生きることにしがみつく浅ましい女を装い、彼を傷つけて遠ざけるしかなかった。
彼がどれほど私を憎んでも、構わない。
私は看護師の前で、「臭くて気持ち悪いし、自立できないなんて情けない」と彼を罵り、「毎日同じことの繰り返しなんて地獄なの」と叫んだ。
さらには、「いっそ死んで。生きてるだけで邪魔なの」と、ひどい言葉まで投げかけた。
――それでいい。
少しでも彼の気持ちに揺らぎが見えたら、私はためらわずに彼のそばを離れることができた。
そして、彼がついに私を突き放したあの日。
私は笑いながら、用意しておいた絶縁状を彼の顔に叩きつけた。
修治は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、震える手で自分の名前を書いた。
私は絶縁状を握りしめたまま、手術室へと入った。
「お金はすべて持って海外へ行く。もう二度と戻らない」
そう言い残して――
けれど私は、何度もこっそり病室の外に身を潜めた。夕日が沈むころ、扉の隙間から覗き込んだ。
亜矢子の看護のもと、少しずつ元気を取り戻していく修治の姿。
誰も知らない。
海外で成功したと思われていた私は、実際にはこの薄暗い片隅に隠れ、表に出ることさえ恐れていた女だったなんて。
そして――まさか死の間際に、再び彼に会える日が来るなんて思わなかった。
湿って冷たいこの小部屋が、私の最後の眠る場所になる。
それでも、彼が幸せなら、それでいい。
スマホの待ち受け画面には、気高く微笑む修治の写真が映っている。
その姿に誇らしさと胸を刺すような切なさが同時に湧き上がった。
無機質な着信音が、私を現実に引き戻した。
「支払いに失敗しました」と、医師は申し訳なさそうに告げた。
真っ赤な【未払い】という警告マークが、目に刺さった。
私は乾いた笑いを漏らした。
連絡先は、もう数えるほどしか残っていない。
少し迷った末、私は施設長の育美に電話をかけた。
「仕事をください。どんなに苦しくても、どんなに辛くても構いません」
修治は、私が命金を持ち逃げしたと思っている。彼は私を憎み、死んでほしいとさえ思っている。
今の私の惨めな暮らしを知れば、彼はきっと胸がすく思いをするだろう。
人工心臓が警告を発しているかのように痛みを感じている。それでも私は働き続け、以前に支払えなかった薬代や治療費を稼がなければならない。
「どうせ死ぬなら、それでいい」と思いながらも、ほんの少しでも生きる希望が見えたら、私はやはり情けなく、それを掴もうとしてしまう。
育美は、私が情け知らずの恩知らずだとは信じていない。また、私がここ数年に経験してきた苦難に同情している。
そして、何も言わずに、彼女の長男・鍵本敬之(かぎもと のりゆき)が支配人を務めるホテルで働けるよう手配してくれた。
――偶然にもその日、修治は最愛の妹・亜矢子のために同窓会を開く予定であり、ホテルでは急遽受付スタッフを募集していた。
一日10万円。それだけあれば、あと数か月は薬を買って生きていける。
慌ただしくホテルに駆けつけた私は、角を曲がった拍子に、温かい胸板にぶつかった。
顔を上げた瞬間――そこにいるのは、複雑な表情で私を見下ろす修治だ。
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