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愛は二度と振り返らない第3話

この話は約1703字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

結婚式が終わって帰宅すると、颯人は疲れ果ててソファに深く沈み込んだ。

「さっきはろくに食べられなかったから、うどんを一杯作ってくれ」

「わかったわ」

奈々はすぐに湯気の立つうどんを用意し、テーブルに置いた。

颯人は一口啜ると眉をひそめ、吐き出すように言った。

「なんでこんなに塩辛いんだ?

塩の瓶でもひっくり返したのか?」

「ごめんなさい……」

奈々はうろたえ、エプロンの裾をぎゅっと握りしめた。

最近、記憶がいつも混乱していて、調味料を何度入れたか分からなくなることが多かった。

だが、颯人の前では、もう「忘れた」という言葉は口が裂けても言えなかった。

「また『ごめんなさい』か。一日中謝ってばかりで、何の役に立つんだ?」

颯人は箸を乱暴にテーブルに叩きつけ、声を荒げた。

「うどん一杯まともに作れないお前に、他に何ができるのか?」

彼の冷たい眼差しは底なし沼のようで、奈々を少しずつ引きずり込み、窒息させるようだった。

奈々は目に熱いものがこみ上げるのを感じながら、涙をこらえて声を絞り出した。

「私……私には、まだ鍼治療の治験の被験者になることができます……」

彼女は去り際に、自分が何の役にも立たない人間だという印象だけは、颯人に残したくなかった。

奈々の潤んで赤くなった瞳と視線が合うと、颯人はふいと目を逸らし、唇を真一文字に結んだ。

「お前がそう言うなら、明日から毎日、時間通りに治験に来い」

以前は週に一度だった鍼治療の治験が、毎日行われることになった。

奈々の顔色は日に日に青ざめ、意識も日に日に朦朧としていった。

それでも彼女は毎日欠かさず、朝九時きっかりに東洋医学クリニックへに現れ、長椅子におとなしく座って、颯人が準備を整えて呼ぶのを待っていた。

その日、十時を過ぎても颯人は現れなかった。

心配になった奈々は立ち上がり、ガラス窓越しに診療室の中を覗き込んだ。

そして、颯人が片膝をつき、ある若い女性、宮本詩織(みやもと しおり)の前に屈み込んでいるのが見えた。

その女性は頭の帽子をしっかりと押さえ、痩せた小さな顔には涙で潤んだ大きな瞳があった。

か弱く、思わず守ってあげたくなるような雰囲気を漂わせていた。

「詩織は俺にとって一番美しいよ。髪がなくたって、きれいだ。

いいから、帽子を取って。必ず治してみせるから」

颯人の声は柔らかく、その表情の優しさはは人を蕩けさせるほどだった。

詩織は目尻を赤くし、緊張した様子で彼の袖をつかんだ。

「颯人くん、鍼を打つとき、優しくしてくださいね。痛くしないで」

「もちろんだよ」

颯人は優しく彼女の帽子を外した。

詩織の緊張と怯えを和らげようと、銀鍼を持つ手を彼女から見えないように引き、もう片方の手の親指で彼女の額を優しく撫でた。

「明日、体育館でコンサートがあるんだ。一緒に行かないか?」

窓の外で、奈々は体が凍りついたように立ち尽くしていた。

颯人が詩織に見せる心からの優しさと気遣い。

それはこれまで自分には欠片ほども向けられたことのないものだ。

奈々の目は刺すように痛み、心は引き裂かれるようだった。

ベッドに横たわっていた詩織は、自然な仕草で両腕を伸ばし、親しげに颯人の首に腕を回した。

その親密な様子は、まるで寄り添う白鳥のようだった。

詩織の甘えた声は、聞く者の心を和ませた。

「じゃあ、私がおりこうにしていたら、他にもご褒美はある?」

颯人は溺愛するように微笑んだ。

「ああ。何でも望みを叶えてやる」

この光景を目の当たりにして、奈々は二人が単なる医師と患者の関係ではないことを確信した。

なぜなら、颯人が詩織に向ける心からの優しさと喜びは、これまで一度も自分に注がれたことがなかったからだ。

奈々はよろめきながら踵を返し、突然壁に手をついてかがみこんだ。

内臓を引き裂かれるような痛みが全身を襲った。

口に流れ込む涙は苦く、彼女は小さく呟いた。

「大丈夫……すぐに痛みなんて消えるから……」

「奥さん!」

奈々の様子がおかしいことに気づいた時宗が心配そうに駆け寄った。彼女の顔色は普段より悪く、どこか優れない様子に見える。

次の瞬間、彼はハッと何かに気づいたように目を見開き、驚愕の声を上げた。

「奥さん、妊娠されてるんですか!?」

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