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愛はなかったように第3話

この話は約1767字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

朝日が差し込む頃、目を覚ますと、時礼はすでに荷物をまとめて家を出ていた。

半分空になった家に、私は妙に慣れなかった。

朝食をすませ、私は父のお見舞いのため病院へ向かった。

一昼夜かけて説得し、ようやく父は集中治療室へ移ることになった。

私は、ガラス越しに弱々しい父の顔をじっと見つめていた。

「容態が安定すれば、すぐに一般病棟へ移れます。そうなれば、引き続き化学療法も受けられます」

どう返せばいいのか分からず、私はただこうつぶやいた。

「……ありがとうございます」

温かい手のひらが、そっと私の頭に触れた。

顔を上げると、深く静かなまなざしと目が合った。

その瞳に、どこか見覚えがあった。

「大丈夫ですよ。お父様、きっと良くなります。

たとえ末期の胃がんでも、治る可能性は30%から50%あります。お父様を、そして医者を信じてあげてください」

理由は分からないけど、その言葉を聞いただけで、ほんの少し心が軽くなった。

エレベーターで1階に降りたとき、会計窓口の前で詩乃と鉢合わせた。

彼女は、こやかに笑ってみせた。

「偶然ね。まさかこんなところで会うなんて」

私は特に話すこともなく、軽く会釈だけしてその場を離れようとした。

そもそも彼女と雑談できるような関係じゃない。

しかし彼女は、そうは思っていないようだった。支払いを終えた私の腕を、彼女がすっと引き止めた。

その瞬間、彼女の足元に傷があることに気づいた。

私の視線に気づいたのか、詩乃の頬がじわじわと赤らんでいった。

「もう、お兄さんったら本気出しすぎなんだよ。私、危うく吹っ飛ばされるところだったんだから。それで足をくじいちゃってさ。

お義姉さんも、お兄さんと一緒のときはそんなに激しいの?」

その声に、私は強い不快感を覚えた。

わざと聞かせているのは明らかだった。

黙っている私に、詩乃は小首をかしげながら、じっと顔を覗き込むようにして続けた。

「ごめんね、お義姉さん。うっかり忘れてた。お兄さん、もうずっとあなたに触れてないんだっけ?

でも怒らないであげて。お兄さんってさ、私のこと、気にし過ぎだけだよ」

その瞬間、私はただただ惨めで、滑稽にさえ思えた。

夜になって、もう戻らないはずだった時礼が帰ってきた。

彼は無言のまま険しい顔で私の手を取り、二階の階段まで引っ張っていった。

「朝倉。俺、詩乃には嫌がらせするなって言ったよな?お前、耳が遠いのか?」

そう言って、彼は私を突き飛ばした。私は階段から落とした。

体が傾き、視界が回転した。

転がり落ちた瞬間、足首に鋭い痛みが走り、涙がにじんだ。

それでも時礼は私を一瞥もせず、淡々と目の前を通り過ぎていった。

「痛いか?それならちょうどいい。詩乃はすでに足をくじいてたんだ。それなのにお前が手を振り払ったせいで、また怪我したんだぞ。

詩乃に手を出すなって、あれだけ言ったのに。なぜ逆のことをする?」

全身が痛みで震える中、私は思わず笑ってしまった。

「午後、たしかに彼女の手を振り払った。でもそのときは何も起きてなかったわ!

会計窓口の近くには医者もいたし、人通りも多かった。誰かに聞けば、私が嘘をついてないって分かるはずよ!」

時礼の眉間にしわが寄り、その目には明らかな怒りが浮かんでいた。

「お前、あそこが死角になってるの知ってて、平然と嘘をついてるんだろ?

お前が立ち去ったあと、詩乃は担架で階段の角から運ばれてきたんだぞ!」

その言葉に私は驚いたが、それと同時に自分が馬鹿馬鹿しい、悲しい人になった。

「……じゃあ詩乃の言い分だけで、私が彼女を傷つけたって決めつけたの?

私は確かに彼女の手を払ったけど、彼女は階段から落ちてない。信じるか信じないかは、あなたの勝手よ!」

パチン、平手打ちを食らって、頬が火照るように痛んだ。

「俺は自分の目で見たんだ。詩乃が担架で運ばれてくるのを!

医者も再捻挫って診断してる。医者も詩乃も、お前を陥れるために嘘をついたとでも言うのか?

詩乃が嘘をつく理由なんてない。彼女はお前のことを本当のお義姉さんだと思ってたんだぞ?なのに、どうしてそんな酷いことができるんだ?

俺は十九のときに彼女と出会って、もう十年になる。彼女は一度だって、俺に嘘をついたことなんてない!」

「じゃあ、私は?私のことは嘘つきだって言いたいの?

時礼、私たちは十六のときから、ずっと知り合いだったじゃない!」

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