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愛の芝居なんてごめんよ第3話

この話は約2132字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

バックミラー越しに、蘭子は彼が電話を取るのを見た。何を話しているのかは分からなかったが、通話を終えると、彼は一度も彼女を見ようともせず、そのまま車を発進させて山を下っていった。

蘭子の車はまだ崖の縁に止まったままで、片方のタイヤが半分ほど空中に浮いている。夜風が窓から吹き込み、冷たい空気が車内に満ちている。

彼女はハンドルに突っ伏した。胸の中で、心臓が激しく高鳴るのを感じる。生き延びたという実感が薄れるにつれ、骨の髄まで染みるような冷たさが押し寄せてくる。

ドアを押し開け、よろめきながら外へ出ると、山道を伝って家の方へと歩き始める。

こめかみの傷口は冷たい風にさらされ、まるで細い針がゆっくりと骨に刺さっていくような痛みが走る。

震えるほどの痛みに耐えながらも、頭の中では信之との記憶ばかりが次々と浮かんでは消える。

蘭子と信之は幼馴染で、両家は代々親しい付き合いを続けてきた。

七歳の年、蘭子の両親は飛行機事故で亡くなり、彼女は信之の家に引き取られて育てられた。それ以来、信之とは常に行動を共にするようになっていた。

恐らく家庭の躾が厳しすぎたのだろう。信之は常に無愛想な表情を崩さず、決して譲るそぶりを見せない。ましてや口を滑らせて優しい言葉など洩らすこともなかった。

蘭子は、彼との関係はこのまま、冷えもせず熱くもならないまま続いていくのだろうと思っていた。ところが高校時代、同じクラスの男子からラブレターを受け取った瞬間、彼女は信之の顔に、これまで見たこともないほど豊かな感情のゆらぎが浮かぶのを目にした。

彼はそのラブレターを破り捨て、彼女を壁際に押し付け、目を赤くして見つめながら言った。

「蘭子、覚悟しろ!七歳でうちに来たときから、この佐藤家の人間としてずっと生きていくんだぞ」

その時、初めて蘭子は悟った。信之の冷たい態度の奥には、長年にわたって積もりに積もった、自分への愛情があったのだと。

彼女自身も、心の底から信之を慕っていた。こうして二人は、大学卒業を前に婚姻届を提出することにした。

二人はその流れで自然に結婚したが、歩むべき道を一歩も省くことはできないということを忘れていた。

抜けた恋愛の過程は、後になって彼女の代わりに埋め合わせてくれる人がいた。

それが清子だった。

結婚して三年目、蘭子が妊娠四か月を迎えた頃だった。ある日、信之のスーツのポケットから一枚の宅配便の領収書が見つかった。配達の品物は女性用香水だが、あて先はこの家の住所ではなかった。

記された住所を手がかりに、蘭子はそのマンションを訪れた。扉が開いた瞬間、目の前の光景に息を呑んだ。清子が、信之のだぶだぶした白いシャツを着てソファに座り、彼が淹れたコーヒーを一口含んでいたのだ。

その瞬間、蘭子の頭は真っ白になり、思わず駆け寄ろうとした。すると、清子がさっと足を差し出して彼女の足を引っかけ、蘭子は腹部をテーブルの角に強く打ちつけてしまった。

温かな血が脚を伝って流れ落ち、蘭子は激痛に身を縮めて床に崩れ落ちた。顔を上げると、信之が駆け込んでくるのが見えた。彼の最初の反応は清子を背後に庇うことで、彼女を助け起こすことではなかった。

「蘭子、いったい何を騒いでいるんだ?」その声は氷のように冷たく、かつての一片の優しさも感じられなかった。「清子は身体が弱い。もし彼女を脅かすような真似をしたら、俺は絶対に容赦しない」

蘭子は自分の脚から流れる血を指さし、震える声で言った。「信之……赤ちゃんが……」

しかし彼はその血だまりに一瞥もくれず、ただ彼女を見据え、警告を含んだ口調で言い放った。

「はっきり言っておく、蘭子。俺が本当に愛しているのは清子だ。お前がまだ『佐藤夫人』の座にしがみつきたいなら、大人しくしていろ。二度と清子に近づくな。でなければ、お前は何もかも失うことになる」

あの時、蘭子は病院のベッドに三日間、伏せったままだった。赤ちゃんは失われたと言われたが、信之は最初から最後まで、彼女のもとに姿さえ見せようとはしなかった。

清子の存在を知らなかった頃の信之は、まだ何かを繕おうとする気配をわずかに見せていた。

しかし、関係が彼女に露見してからというもの、彼はもはや隠す気すら失せていた。

彼は清子を連れて絵画展に行き、重要な宴会にも同席させ、佐藤グループの公式サイトで堂々と彼女への愛を宣言した。

誰もが彼の清子への愛を知っており、誰もが哀れな佐藤夫人を嘲笑していた。

蘭子は夜ごと眠れぬ日々を重ね、結婚という名の淀んだ沼に、ゆっくりと沈んでいった。

彼女は何度も離婚協議書を作成したが、いざ署名しようとすると、必ず少年時代の信之を思い出した。七歳の頃から片時も離れず過ごしたあの日々を。

記憶はまるで縄のように彼女を腐敗した結婚に縋りつかせ、どうしても逃れることができなかった。

だからこそ、清子の死後、信之が「罪悪感」を感じて彼女のもとに戻り、「蘭子、もうお前しかいない」と言ったとき、彼女は溺れる者がわらをも掴む思いで離婚届を破り捨て、彼があらかじめ張り巡らせていた復讐の罠へ、自ら進んで飛び込んでしまったのだ。

さらには、子を身ごもったあの夜、酔いつぶれた彼が彼女を抱きしめながら口にしたのは清子の名だった。

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