愛の残響第1話
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偶然にも、私は夫の秘密を知ってしまった。
それは、家の隅々にまで仕掛けられた無数の針穴カメラ。
私は何事もないふりを装いながら、じっと様子をうかがった。
ある日、私は外出するふりをして、こっそり物置に身を潜めた。
すると、静寂を切り裂くように、夫と愛人の甘い囁きが聞こえてきた。
桐生聡真は荒い息をつきながら言う。「急げ……羽純の治療時間は、たったの20分しかない」
彼の下にいる女がくすりと笑う。「何を怖がるの? どうせ半分しか見えてない女なのに」
その瞬間、聡真の声が鋭く響いた。
「お前に彼女のことを語る資格はない!
羽純は、俺の唯一の妻だ。 これ以上つけ上がるなら、出て行け!」
彼は知らない——私の目は、もう完全に治っていることを。彼と同じように、すべてを見通せる瞳に戻っていることを。
物置の扉をそっと押し開ける。震える指で、私は電話をかけた。
「お兄ちゃん……M国へ行くことにする」
* * *
二人の行為はぴったり二十分。一秒の狂いもなく、完璧に計算された時間配分——まるで、何百回も繰り返されてきたかのように。
西園寺美咲が服を整えようとした瞬間、聡真は長い腕を伸ばし、彼女を抱き寄せた。
彼の首にしなだれかかりながら、彼女は甘えた声で囁く。「聡真さんったら、また私が恋しくなっちゃったの?」
聡真は冷ややかな目を向け、そばに転がっていたレースの下着を拾い上げると、無造作に彼女の顔へと投げつけた。
「忘れ物だ。
急げ、羽純がもうすぐ戻ってくる」
その瞬間、美咲の笑顔が凍りついた。不満げに鼻を鳴らしながら、拗ねたように呟く。
「はいはい、私はどうせ藤崎さんには敵わないんでしょう?
でも、お腹の赤ちゃんがかわいそうね。まだ生まれてもいないのに、もう格下扱いされるなんて……」
赤ちゃん——その言葉を聞いた瞬間、聡真の表情が変わった。驚きと喜びが入り混じり、目を輝かせる。
「赤ちゃん?!妊娠したのか?!」
彼は美咲の顔に何度もキスを落とし、歓喜のあまり彼女を抱き上げ、くるくると回った。
そして何かを思い出したように、そっと彼女をソファに座らせると、大事そうにお腹に手を添えた。
彼の戸惑いが入り混じる優しい仕草に、美咲はくすくすと笑いながら、そっと彼の胸に顔を埋めた。
「二年だよ……そろそろ石にも花が咲く頃でしょ」
二年——
あの事故で視力を失ってから、ちょうど二年が経つ。
それ以来、目を開いても、世界はぼんやりとした影のようにしか映らなくなった。
聡真は柔らかく微笑みながら、そっと美咲を抱き寄せ、彼女のお腹を愛おしそうに見つめていた。
「羽純は俺の妻だからな。彼女が盲目になっても、さすがに無下にはできない。
でも、お前は俺の大事な人だ。格下扱いされるわけがないでしょう?」
その言葉に、美咲は頬を膨らませ、彼の胸を小さく叩いた。
「またそんな甘い言葉でごまかして!じゃあ、私の子どもは?世間に隠さなきゃいけない私生児のままじゃない!」
聡真は彼女の言葉に詰まり、一瞬考え込んだ後、静かに口を開いた。
「そんなことはない。俺の子どもは、当然、特別な存在だ。
生まれたら、羽純に養子として迎えさせる。
そうすれば、俺たちは正式な家族になれる。そして、彼は堂々と俺の後を継ぐことができる」
その言葉に、美咲の目が輝き、満足げな笑みを浮かべた。
私は、このすべてを聞いていた。背筋を這い上がるような悪寒が止まらず、膝が震える。
信じていた夫が、こんなにも冷酷に計算し、私を欺こうとしていたなんて。
扉が閉まる音が響いた。私は唇を噛みしめ、そっと物置の扉を開けた。
聡真は美咲を送り出した後、リビングに座る私を目にした瞬間、顔色を変えた。
「羽……羽純?!いつ帰ったんだ?」
「今日は出かけてないわ」
その一言で、彼の表情が強張る。
「そ、そうか……何か聞いてないよな?」
そう言いながら、彼は私の目の前で手を振った。
私は何も知らないふりをして、静かに首を振る。
「何も聞いてないわ。どうかした?」
私の目に変化がないことを確認すると、聡真の表情がふっと和らぐ。
私の隣に腰を下ろし、手をそっと握りしめながら、優しく囁いた。
「いや、大したことじゃない。さっき工事の人が来ててな、騒がしかったから……
羽純、俺は本当にお前を愛してる」
その後、彼はまるで何事もなかったかのように、私のために薬を煎じ、丁寧に吹いてから口元に運んでくれた。
彼の誠実そうな仕草を見て、一瞬、本当に今日の出来事は夢だったのではないかと思いかけた。
だが、次の瞬間、彼の一言が、私を現実へと引き戻した。
「羽純……俺たち、養子を迎えないか?」
血の気が引き、指先が冷たくなる。それを見た聡真は、焦ったように言葉を変えた。
「いや、嫌なら今は考えなくてもいい。気にしないでくれ。
ごめん、俺が急ぎすぎたな……怒らないでくれよ」
「考えなくてもいい」そんなものは、ただの時間稼ぎにすぎない。
だが、美咲のお腹の中の子どもは、待ってはくれない。
彼の「養子計画」は、すでに動き出していたのだ。
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