愛の最果て第3話
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俊はハッとして振り返り、ちょうど身をかがめていた私と目が合った。
私が気まずそうに微笑みかけると、彼は逆に眉をひそめた。
「どうしていつもそうやってしゃしゃり出てくるんだ。こんな所で盗み聞きとはな」
「盗み聞きなんてしてない!薬を塗りに来ただけ……」
私の言葉も終わらないうちに、優子が慌てて立ち上がり、こちらへ突進してきた。
「俊先輩、やめて……!」
彼女がそう言い終わるか終わらないかのうちに、熱いお粥の入ったお椀を持ったまま、私に突っかかってきた。
「あっつ!」
思わず痛みに声が漏れた。
お粥は容赦なく私の足にぶちまけられたというのに、彼女自身は俊の腕の中へと、計算されたかのように倒れ込んだ。
なんなの、この茶番劇……。
「ごめんなさい、美桜先輩。先輩のお顔を見たら、怖くなってしまって、つい……」
彼女はそう言いながら顔を覆い、空涙を流し始めた。
俊はさっと彼女を背後にかばい、その手首の傷を念入りに確認し始める。
火傷を負った私は、まるで存在しないかのように、彼の視界には入っていなかった。
服の上からじりじりと熱が伝わり、肌を刺すような痛みが走る。涙が、頬を伝った。
それが火傷の熱さのせいなのか、心の痛みのせいなのか、自分でも判然としなかった。
「被害者ぶるのはいい加減にしろ、美桜。優子がわざとやったわけじゃないだろう」
俊の声には、あからさまな不快感と非難の色が滲んでいた。
「全部、私のせいです……私が愚かで、何もできなくて……私なんて、死んだほうがましです……」
優子は泣きじゃくりながら、俊の胸に顔をうずめた。そのあまりにも儚げな姿は、誰しもの庇護欲を掻き立てるものだった。
寄り添い合う二人は、まるで幾多の困難を乗り越えてきた恋人のよう。それに引き換え私は、この場の調和を乱すだけの異物だった。
「ねえ、今日はもう帰りましょう?大事な話があるの」
私の声は、感情の波一つない、凪いだ水面のように平坦だった。
俊はその時になってようやく、赤く爛れた私の火傷に目を落とした。彼の瞳に、一瞬だけ複雑な光がよぎった。
彼は何かを言おうと口を開きかけたが、優子に「俊先輩、検査に行かなくちゃ」と腕を引かれ、言葉を飲み込んだ。
俊は一瞬ためらったが、すぐに彼女を支えてその場を去っていった。
視界の端に、優子の表情が映り込んだ。
俊の背後に立った彼女は、得意満面の笑みを浮かべていた。それは挑発と、勝利者の傲慢さに満ちた笑みだった。
その眼差しは、「ご覧なさい。結局、彼は私の味方なのよ」と、雄弁に物語っていた。
病院の照明は青白く目に突き刺さり、看護師が慌ただしく駆けつけてきた。それなのに、私はその喧騒の中で、奇妙なほどの静けさを感じていた。
「火傷の処置をしますね」
看護師の穏やかで手際の良い声に、私は物思いから引き戻された。
私はこくりと頷き、看護師に導かれるまま処置室へ向かった。
ツンとした消毒液の匂いが鼻をつく。不思議と、その匂いが今までのどんな瞬間よりも、ずっとリアルに感じられた。
大丈夫。10年間の恋だもの。終わらせるのが、一日や二日遅れたところで、もうどうでもいい。
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