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愛の反対第3話

この話は約1902字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

私はそっと彼の手を振りほどき、落ち着いた声で答える。

「これから遥がここに住むんだから、私の荷物は使用人部屋に運んだ方が都合がいいでしょ」

彼は少しほっとしたように、私の後について使用人部屋に入ってくる。

私は部屋を片付けながら言う。

「明日、離婚届を出しに行きましょう」

蒼佑は眉をひそめ、ふと何かを思いついたように、ゆっくりと口を開く。

「栞、もし俺のそばから離れたくないなら、結婚式はこのまま挙げてもいい。表向きにはお前が俺の妻のままだ。ただ、婚姻届は遥と出し直す」

私は身を起こし、彼に向かって微笑みながら、静かに言う。

「必要ないわ。信じてるから」

私は聞き慣れたセリフを感情を込めずに口にする。

「あなたは遥を心底憎んでいる。

彼女はあなたのお母さんを死に追いやり、うちの母の前で私が愛人だなんて嘘を吹き込んで、母を怒らせて病状を悪化させた。今もベッドから起き上がれないほどに。

だから、絶対に彼女を許さないんでしょ?」

私が彼のセリフを先回りして言ったため、蒼佑は気まずそうに頷くしかない。

よほど後ろめたかったのか、部屋を出る前に、彼は私の口座に大金を振り込んできた。

このお金があれば、母の治療費を払うことができる。

本当によかった。

離婚して、母の体調が良くなったら、一緒にK市を離れ、二度と戻らないつもりだ。

私はスマホを握りしめ、ゆっくりと重いため息を吐き出す。

しばらくして、遥がまたわがままな態度で、部屋を片付けるよう私に命じてくる。

部屋に入ると、情事の後の生々しい匂いとゴムの匂いが入り混じって鼻をつく。

おかしな話だ。

とっくに蒼佑を諦めると決めたはずなのに、それでも心臓が勝手にズキズキと痛んでしまう。

私は鼻の奥がツンとするのを必死に堪え、頑なに前だけを見据えて汚れたシーツや布団カバーを抱え上げ、部屋を出ようとする。

だがその時、遥が足を伸ばして私の行く手を遮る。

「本当に可哀想ね」

彼女は気だるげに笑みを浮かべて言う。

「あんたが喉から手が出るほど欲しがっている男は、私の足元に這いつくばる犬なのよ。

そういえば、さっき聞いたわよね。子供を堕ろせっていうあのメッセージ、私が適当に送っただけなの。ふふっ。蒼佑も知ってるわ。

彼がどうして私のこんな悪ふざけを許しているか、知ってる?」

私は彼女をじっと睨みつける。

そんな私を見て、彼女はさらに口角を吊り上げる。

「私、妊娠したの!蒼佑の目には、私の子供は宝物で、あんたの子供なんて、何の価値もないのよ!」

怒りで頭の血が沸騰しそうになる。

私の結婚生活を壊しておいて、よくも私の子供をそんな風に言えたもの。

私は彼女に向かって高く手を振り上げる。

しかし、手を下ろすより早く、遥は目を赤くして泣き出した。

「……そうよ!私は実家と喧嘩したわ。それがどうしたの?

あんたみたいな卑しい女が調子に乗って、私の上に立てるとでも思ってるわけ!?」

私はハッとする。

次の瞬間、凄まじい力で突き飛ばされ、よろめいて床に尻餅をついた。腰の後ろをローテーブルの角に打ち付け、激しい痛みで一瞬にして顔が青ざめた。

顔を上げると、蒼佑の怒りに満ちた顔と視線がぶつかる。

「栞!わざわざ遥の痛いところを突くなんて、どうしてそんなひどいことを!」

言い終わらないうちに、彼は私の顔色が悪いことに気づき、ためらいながら何かを聞こうとする。

だが次の瞬間、遥が彼の服の裾を掴み、苦しそうに体を丸める。

「蒼佑……お腹がすごく痛い……子供が……私たちの子供が……」

蒼佑は私のことなど完全に忘れ去り、慌てて遥を抱きかかえて外へと急ぐ。

「栞、もし遥や子供に何かあったら、絶対に生き地獄を味わわせてやる」

生き地獄……

前の人生で、彼は確かにそうした。

彼が去っていく後ろ姿を見つめ、ずいぶん経ってから、いつの間にか顔いっぱいに溢れていた涙を拭う。

突然、スマホの着信音が鳴り響く。

病院からだ。

胸の奥に嫌な予感が広がり、電話に出ると案の定、医者の切羽詰まった声が聞こえてくる。

「黒崎さん、すぐに病院に来てください!お母様の病状が急変し、緊急手術が必要です!」

私は冷や汗をかきながら、転がるようにして急いで病院へと向かう。

手続きを終えると、先に費用を支払うよう医者に言われる。

私は心底ほっとする。

さっき蒼佑が大金を振り込んでくれて本当によかった。そうでなければ、母の手術費すら払えなかっただろう。

だが間もなく、私の体は急に凍りつき、青ざめた顔で会計窓口のスタッフに聞き返す。

「今、何とおっしゃいましたか?」

スタッフは同情のこもった目で私を見つめ、申し訳なさそうに繰り返す。

「黒崎様、申し訳ございませんが、こちらのカードは凍結されているようです」

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