愛と憎しみのすれ違い第1話
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2年間行方不明だった夫は、新しい恋人と新しい名前を手に入れて戻ってきた。
彼の記憶の中で、私は彼を不幸にした悪い女になっていた。
首を掴まれ、その目には憎悪が渦巻いている。
「よくも俺を探しに来られたな」
そして彼がすべてを思い出した時、許しを乞うために全世界に愛を宣言してきた。
でもそれはすべて、私を奈落の底に突き落とすためだった。
* * *
もう何回目かなんて覚えていない。
霧島淵斗(きりしま ひろと)は気まぐれに私を車に押し込み、猛スピードで山道を駆け上がっていく。
メーターは120kmを指していた。胸が詰まる。
「はる……淵斗……お願いだからスピードを落として!路面が危ない、安全第一だ!」
彼は鼻で笑った。
「心配するな。お前の命なんて安いもんだが、俺の命は惜しいんだよ」
言葉が詰まり、喉が渇く。まただ。
やがて車は止まり、着いたのは犬の飼育場だった。
「初音、俺は心を入れ替えて、いい夫になろうと思ってるんだ。友達と仲良くしなきゃ話にならないだろ?」
そう言いながら、彼が連れ出したのは大型犬――コーカシアンと呼ばれるものらしい。
血の気が引いた。私が犬を怖がるのを知っているのに。
幼い頃、田舎で野良犬に何度も足を噛まれたことがトラウマになっている。
目の前の犬は、かつて村で見たどんな凶暴な犬よりもはるかに大きい。
以前の橘陽翔(たちばな はると)なら棒を持って犬を追い払ってくれたものだ。
だが今の彼は、嘲笑を浮かべてこう言った。
「初音、ゲームをしよう。10秒やる。その間に逃げろ。うちの可愛い子に捕まらなければ、言い分を信じてやるよ」
犬は今にも飛び掛かりそうだった。
瞳孔が開き、彼が何をしようとしているのか悟る。
「10……9……」
淵斗のカウントが始まった。冗談ではない。本気だ。
私は全力で走り出した。けれど、人間が四本足の動物に勝てるわけがない。
巨大な犬が私に覆いかぶさり、鋭い爪が足を引き裂く。痛みが鋭く走る。
大きな口が開き、私の首を狙ってくる。
噛まれたら、半分は命を持っていかれる。
思わず両手で頭を庇った。
「陽翔、助けて!」
犬の牙が手に食い込み、鋭い痛みが全身を駆け巡る。
観客のように冷たく見ていた淵斗が、何かに触発されたように頭を押さえ、口笛を吹いた。
「チャンスはやった。掴めなかったのは自業自得だ」
彼の視線は氷のように冷たかった。
血が滲む手を抑え、胸がぎゅっと痛む。
「淵斗、こんなことをしてはいけない。思い出した時に、絶対後悔するよ」
「後悔?俺が?後悔するのは、お前にもっと酷いことをしなかったことだけだ。俺は何も忘れちゃいない。思い出す必要なんてない!
お前が今受けてる痛みなんて、俺が背負った千分の一にも満たない。お前が俺にしたこと、簡単には返せないぞ」
犬を飼育員に渡した彼は、血の滴る私の手を気にも留めず、車を走らせて去って行った。
タクシーを捕まえることもできず、私は山を下るために1時間も歩き、繁華街に着いてようやく病院で傷を治療した。
帰宅して横になった家は、確かに淵斗の家だった。だが、私たちの家ではなかった。
二人で選んだペアのスリッパも、対になったマグカップもない。
結婚写真はすべて燃やされ、灰も残っていない。
涙が枕に染み込む。
大丈夫。
彼が思い出せば、きっと全てが元通りになるはずだから。
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