愛とは繭を作ること第3話
この話は約2489字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
申請の備考欄には、こう書かれていた。
【橋本ちゃん、何を拗ねてるんだ?】
指先が震えた。
涙が、ますます止めどなくこぼれ落ちていった。
安英はまだ、私がただ拗ねているだけだと思っている。
私は申請を承認しなかった。
そのままスマホの電源を切り、ベッドの上に放り投げた。
けれど、2分もしないうちに、また画面が光った。
また友達申請だった。
今度の備考欄には、【メッセージを見たら返信して】と書かれていた。
私は唇を強く噛みしめ、その文字を見つめた。
胸が、ズキズキと痛んだ。
以前、喧嘩をしたときもいつもそうだった。
私が彼を無視すると、彼は一通、また一通とメッセージを送ってきた。
口では強気なくせに、実際は誰よりも甘えん坊だった。
一度、わざと半日ほど返信しなかったことがある。
彼は十数通もメッセージを送ってきた。
最後には、我慢の限界に達したように、こんな一言を投げてきた。
【まだ無視するなら、警察に通報するからな】
私は返信した。
【何を通報するの?】
すると彼は言った。
【ネット恋愛の相手が行方不明になったって】
あのとき私は、笑いすぎて机に突っ伏し、しばらく顔を上げられなかった。
でも今は、彼から送られてくる友達申請を見つめても、目を開けていることさえつらかった。
なぜなら、私はようやく分かったから。
私だけに向けられていると思っていた彼のあの優しさも、あの甘えたような態度も、もしかしたら最初から、私のためじゃなかったのかもしれない。
あるいは、全部が私に向けられたものではなかった。
私はベッドの端で膝を抱え、スマホをマナーモードにした。
それでも、友達申請の通知は次から次へと表示された。
【どうした?】
【橋本ちゃん?】
【一体どうしたんだ?金のネックレス、気に入らなかった?】
【話してくれ】
最後の一通が届いたのは、それから10分後だった。
短い言葉だった。
【何かあったのか?】
私は目を閉じた。
涙がスマホの画面に落ちた。
こんな状況になっても、彼はまだ私のことを心配している。
なのに私は、彼を問い詰める資格すらなかった。
最初から最後まで、自分の正体を隠していたのは私だったから。
彼と姉が一体どうやって付き合うようになったのか。
どうしてこのネット恋愛が始まったのか。
私は何も知らない。
彼がどうして、私を姉のサブアカウントだと勘違いしたのかも分からない。
それでも、もうこれ以上続ける勇気はなかった。
翌朝、母に呼ばれて、私は進学先の願書を記入しに行った。
腫れぼったい目のまま部屋から出ると、姉はすでにソファに座っていた。
髪を洗ったばかりなのか、まだ半乾きだった。
彼女はうつむきながら、スマホを操作している。
私を見ると、眉をひそめた。
「泣いたの?」
私はすぐに目を伏せた。
「ううん。昨日、あまり眠れなかっただけ」
姉は数秒間、私を見つめた。
どうやら信じてはいないようだった。
それでも、それ以上は聞かなかった。
ただ、温かい牛乳を一杯、私の前に押し出した。
「先に飲みな」
私は小さく、「うん」と答えた。
私が腰を下ろしたばかりのとき、姉のスマホが突然鳴った。
姉は画面を一目見ると、表情をわずかに曇らせ、そのままスマホを切った。
母が隣で笑いながら尋ねた。
「彼氏?」
姉は鼻で笑った。
「本当にうるさいよ。昨日からずっと、訳の分からないことばっかり聞いてくるの」
私はカップを握る手に力を込めた。
母は興味津々といった様子で尋ねた。
「何を聞かれたの?」
姉は眉をひそめ、苛立った口調で言った。
「昔、私があいつに言ったことを覚えてるかとか、わざと知らないふりをしてるんじゃないかとか、サブアカウントを持ってないかとか。意味分かんない」
私は息をするのも忘れた。指先が一気に冷たくなった。
母はおかしそうに笑った。
「それだけあなたのことが気になってるってことでしょう。若い人の恋愛なんて、みんなそんなものよ」
けれど、姉は冷たく口元を歪めただけだった。
「誰があいつと付き合ってるのよ。好きなら勝手に好きでいればいいじゃん。私には関係ないし」
口では気にしていないと言いながら、それでも結局、彼をブロックすることはなかった。
私は、華やかでいてどこか冷たい姉の顔を見つめた。
すると、胸の奥に深い無力感が湧き上がってきた。
昔から、ずっとそうだった。
姉は何の努力をしなくても、誰からも注目を集めることができた。
それなのに私は、必死に隠してきたほんの少しの恋心さえ、最後には笑い話のようになってしまう。
昼になり、私は学校へ行って進学先の願書を記入した。
先生は私の成績表を手にして、しばらく眺めていた。
「本当に全部、県外の大学にするの?」
私はうなずいた。
「はい。決めました」
先生は眉をひそめた。
「この成績なら、地元の大学でも十分進学できるでしょう。何もそんな遠くまで行かなくても……」
私は目を伏せ、静かに答えた。
「家から離れたいんです」
曖昧な言い方だった。
けれど、私だけは知っていた。
私が離れたかったのは、この街にあるすべてだった。
安英も含めて……
願書を書き終えて学校を出ると、太陽がまぶしいほど照りつけていた。
私はうつむきながら校門へ向かって歩いていた。
そのとき、スマホが突然震えた。
新しい友達申請だった。
また安英だった。
彼は諦めきれなかったのか、別のアカウントから私を追加してきたらしい。
プロフィール画像は、真っ黒な一色だ。
備考欄に書かれていた言葉も短かった。
【無視するな】
私は校門の前に立ったまま、その文字を長いこと見つめた。
風が吹き、目が痛くなった。
それでも最後まで、申請を承認することはなかった。
そのままスマホの画面を閉じた。
夜、家に帰ると、姉はいなかった。
母に聞くと、出かけたらしい。
私は「うん」とだけ答え、自分の部屋へ戻って、進学先の資料を整理した。
けれど、しばらくすると、階下から車の音が聞こえてきた。
なぜか胸がドクンと跳ねた。
何かに導かれるように、私は窓辺へ歩いていき、外を覗いた。
家の前に、一台の黒い車が停まっていた。
その車のドアにもたれかかり、一人の青年がスマホを見ながら立っている。
横顔を見ただけで、私はすぐに分かった。
安英だ。
私は全身が凍りついた。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
S99374- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。