愛で縛り付けないで第1話
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村上和子(むらかみ かずこ)と千葉裕司(ちば ゆうじ)が結婚して五年目、彼女は白血病を発症した。
裕司は法外な金額を提示して骨髄ドナーを説得し、ようやく面会にこぎつけた。
だが相手は裕司を見るなり一目惚れし、約束を翻した。
金銭に加え、三ヶ月間恋人関係になることを要求してきた。
裕司は和子を救うため、やむなく条件を受け入れた。
三ヶ月間で98回もデートを重ねた。
毎回デートが終わると、裕司は病床の和子の前にひざまずき、手を握って誓った。「あの女とはただの演技だ。和子、俺が一生愛してるのはお前だけだ」
しかし99回目のデートの日、和子の元に裕司とその女の露骨なベッド写真が届いた。
写真の中で二人は裸で抱き合い、裕司の顔には情欲が溢れていた。彼女がずっと見かけなかった表情だった。
* * *
千葉裕司(ちば ゆうじ)と結婚して五年目、村上和子(むらかみ かずこ)は白血病だと診断された。
裕司は法外な値段で、ようやく骨髄ドナーの女の子を説得し、会ってくれるようになった。
骨髄提供の手続きをする予定だったが、裕司と会った途端、相手はその場で気が変わってしまった。
「金も欲しいけど、人も欲しいわ」と女は髪をかきながら笑った。「3ヶ月彼氏になってくれたら、提供してあげる」
和子を救うため、裕司は承諾するしかなかった。
3ヶ月間、二人は98回もデートした。
裕司はデートから戻る度に、病床の前で跪いて彼女の手を握り、「和子、あの女とはただの芝居だ。心にはお前しかいない!」と誓った。
だが99回目のデートの日、裕司とあの女の露骨な密着写真の束が和子のところに届いた。
撮影の場所は実に多彩だった。遊園地の観覧車、デパートの試着室、自宅のキッチンやリビング、フロアタイルの窓際まで。最も最近の一枚は、何と彼女の病室に隣接する家族休憩室で撮られたものだった。
その女の子は裕司の膝の上に座り、裕司の指が彼女の髪に絡まっていた。夢中になった彼の姿を、和子はもう何年も目にしていなかった。
ふと前夜のことを思い出した。悪夢にうなされて目を覚ました時、ちょうど裕司がドアを開けて入ってきて、かがんでそっと彼女の額にキスしたのだ。
「和子、もう少し我慢して。手術が終われば、また元通りになれるから」
あの時は心底感動し、彼が自分の悪夢を察知して駆けつけてくれたのだと勘違いしていた。
今となっては分かる。あれは単に、彼が女遊びをした後のわずかな罪悪感でしかなかったのだ。
胃が突然激しく痙攣、和子はベッドの縁にうつ伏せになって、吐き気が収まらなかった。
ちょうどその時、病室のドアが開き、白石知子(しらいし ともこ)がハイヒールの音を響かせながら入ってきた。その足音は、まるで彼女の頬を容赦なく叩くような響きだった。
「写真はもう見たでしょ?」知子はドアに寄り掛かり、口元に笑みを浮かべた。
「今、裕司は私のものよ」
和子は口角を拭い、顔を上げて詰め寄った。「あなた、一体何が目的なの?」
「もちろん、あなたに代わって千葉夫人になることよ」知子はベッドまで歩み寄り、指先で彼女の頬を撫でた。その冷たい感触に和子は震えた。「金も顔も兼ね備えた男、欲しくない女がいると思う?」
和子はシーツを握り締め、苦しげに言い放った。「絶対にあなたの思うようにはさせないわ!」
裕司と出会った頃、彼はまだ無名だった。今のビジネス界の新星となるまで支えてきた。そんな彼が、あの女のためにこの自分と離婚するはずがない。
知子は彼女の心を見透かしたように、近づいて小声で囁いた。「じゃあ、あなたの骨髄移植はまたやるつもり?」
背筋が凍りつくような寒気を感じた瞬間、知子は突然彼女の手首を掴み、自分の顔に思い切り叩きつけた。
ビン!
鋭い平手打ちの音が病室に響いた。
その瞬間、病室のドアが勢いよく開かれた。
裕司が飛び込んでくると、知子はよろめきながら彼の胸に倒れ込み、目を赤くして泣きじゃくった。
「村上さん、骨髄を提供してあなたを助けると言ったのに、千葉さんにたった3ヶ月付き合ってもらってるぐらいの願いも叶えてくれないの?」
裕司の視線が彼女の頬の赤い痕に止まり、目が一瞬で冷え切った。振り向いて和子を睨みつけた。
「和子!知子はお前を助けに来たんだぞ。どうしてぶん殴った?さっさと謝れ!」
和子の胸が締めつけられるように痛んだ。
大学時代のことを思い出した。盗作の濡れ衣を着せられ、皆が彼女を責める中、裕司だけは証拠を探し、冤罪を晴らしてくれたのだ。
なのに今、由緒も聞かずに、いきなり彼女が悪いと決めつけた。
「私が殴ってないよ」歯を食いしばり、声を震わせた。「何で謝らなきゃいけないの?」
知子は裕司の腕の中でさらに震え、泣きながら悔しげに言い出した。「千葉さん、もう止めましょうか……私、本当に骨髄提供に相応しくないかもしれない……」
「だめだ!」
裕司は急いで知子を中断し、くるりと振り返って和子を病床から引きずり下ろした。
元々弱っていた彼女は、その荒々しい力に引きずられ、膝を床に強く打ち付け、痛みで目の前が真っ暗になった。
「謝れ!」
骨でも砕かんばかりの力で彼女の肩を押さえつけ、「死にたいのか?」と怒鳴った。
膝の激痛で冷や汗が一気に患者服を濡らした。和子は顔を上げると、滲んだ視界の中に裕司の噛み締めた顎が見えた。「殴ってないって言ったでしょ……どうして……」
話が終わらないうちに、後頭部をぐいと押さえつけられ、額を床に叩きつけられた。
ゴン!
めまいが押し寄せてきた。
「知子、和子はもう謝ったんだ。約束を破るんじゃないぞ」
裕司の声が遠くから伝わってくるように聞こえてきた。
ゴン!
もう一回繰り返された。
十回目にして、知子はようやくゆっくりと口を開いた。「まあいいわ、許してあげる。千葉さん、今夜のデートを忘れないでね」
ハイヒールの音が遠のくのを待ち、裕司はようやく手を放した。
和子は床に這いつくばり、血と涙が混じって口元に流れ込み、血の鉄臭さと涙の塩味が混ざった。
彼はしゃがみ込むと、指先で彼女の頬に触れたが、火にでも触れたかのようにすぐに引っ込めた。
「和子、恨むなよ。全部お前のためだ」
足音が入り口で二秒ほど止まり、結局は知子の後を追うように消えていった。
病室のドアが閉まる瞬間、和子は医者を呼ぼうとしたが、喉から漏れたのはかすれた息遣いだけだった。
血で視界が覆われ、暗闇が押し寄せてきた時、彼女が最後に耳にしたのは、裕司が追いかける足音だった。一歩一歩、遠ざかっていく音……
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