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愛が尽きる時に散る想い第1話

この話は約2030字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

港市の人間なら誰もが知っている。この街一の大富豪、今井瑛翔(いまい えいと)が度を越した愛妻家だということを。

その妻である私・竹内詩織(たけうち しおり)は、一時期、誰もが羨む存在だった。

けれど、岡本紗希(おかもと さき)という女が現れて、私は初めて思い知ったのだ。どれだけ深く愛してくれる人でも、心変わりはするものなのだと。

私にバレるのを恐れた彼は、紗希を川沿いの郊外にある別荘に隠し、私の目の届かない場所で、彼女をとことん甘やかしていた。

だが、私の前にだけは決して彼女を出すことはせず、情事の後にはいつも、冷たい声でこう警告していたという。

「もしこのことを詩織にバラしたら、君のいい御身分もそこまでだ」

しかし、その女はそう素直ではなかった。彼女は瑛翔の寵愛を盾に、毎日私に当てつけのような真似をしてきた。

紗希の存在は、彼がもはや私だけを愛してくれた頃の瑛翔ではないのだと、絶えず私に突きつけてくる。

それならば、私は彼の選択を尊重し、永遠に彼の前から姿を消そう。

* * *

港市の人間なら誰もが知っている。この街一の大富豪、今井瑛翔(いまい えいと)が度を越した愛妻家だということを。

その妻である私・竹内詩織(たけうち しおり)は、一時期、誰もが羨む存在だった。

けれど、岡本紗希(おかもと さき)という女が現れて、私は初めて思い知ったのだ。どれだけ深く愛してくれる人でも、心変わりはするものなのだと。

私にバレるのを恐れた彼は、紗希を川沿いの郊外にある別荘に隠し、私の目の届かない場所で、彼女をとことん甘やかしていた。

だが、私の前にだけは決して彼女を出すことはせず、情事の後にはいつも、冷たい声でこう警告していたという。

「もしこのことを詩織にバラしたら、君のいい御身分もそこまでだ」

しかし、その女はそう素直ではなかった。彼女は瑛翔の寵愛を盾に、毎日私に当てつけのような真似をしてきた。

紗希の存在は、彼がもはや私だけを愛してくれた頃の瑛翔ではないのだと、絶えず私に突きつけてくる。

それならば、私は彼の選択を尊重し、永遠に彼の前から姿を消そう。

……

別荘を出てから、私はあてもなく街を彷徨い、家に帰り着いたのは深夜だった。

家政婦の加代ばあやが、いつものように漢方薬の入ったお椀を私の前に差し出した。

ふわりと漂う血の匂い。その嗅ぎ慣れた香りに、私は呆然と物思いに耽っていた。

瑛翔と結婚してから、私たちにはずっと子供がいなかった。病院で検査した結果、私の子宮に問題があり、妊娠しにくい体だと分かったのだ。

その事実を知った私は涙に暮れる日々を送り、そんな私を見かねた瑛翔は、国中の名医を探し回ってくれた。

そしてついに、彼は地元で非常に名高い漢方の老大家に巡り会った。その医師曰く、男性の指先の血を副薬にすれば、女性の子宮の疾患を和らげることができるという。

この民間療法を知ってから、彼はいつでも副薬が採れるようにと、ほとんど肌身離さず小さなナイフを持ち歩いていた。

この数年で、彼の指先はナイフの傷で見る影もなくなっていた。

このことのために、彼はピアニストになるという夢さえ諦めたのだ。

彼の指先の血で煎じられたその薬を、私は五年も飲み続けてきた。

てっきり彼は、私たちの間に子供ができるようにと、私の体を一日でも早く良くしたかったのだと思っていた。

まさか、これほどの代償を払ってまで、彼がただ私に自分の子を永遠に孕ませないようにするためだったなんて、思いもしなかった。

そう思うと、私は自嘲気味に首を振った。

もともと妊娠しにくい体だというのに、どうしてここまで念入りにする必要があったのだろう。

どうやら彼は、本気で私との間に子供を作りたくなかったらしい。

瑛翔が部屋に入ってきた時、私はちょうどお椀を手にしたままぼうっとしていた。

そんな私を見て、彼は後ろから抱きしめ、優しい声で言った。

「どうしたんだい、ぼんやりして。薬が苦すぎたかな?飴を持ってきてあげようか?」

そう言って、彼は手品のようにポケットから飴を一つ取り出した。

彼の優しい眼差しを見つめていると、胃の奥から何かがこみ上げてくる。

吐き気をぐっとこらえ、私は淡々と告げた。

「なんでもないの。多分、今日出かけた時に風に当たったみたいで、薬の匂いを嗅いだら急に気持ち悪くなって」

瑛翔は途端に唇を固く結び、心配そうな表情を浮かべた。

「ここ数日冷え込んでいるのに、君は薄着だったから。どこか具合でも悪いのかい?病院で診てもらおう」

私は首を横に振った。

「大丈夫、もうだいぶ良くなったから」

私が頑なにそう言うので、彼は病院へ行くという考えをひとまず収めた。

手の中のお椀を見つめていると、目の奥がじんと熱くなった。

瑛翔は、どれほど私に自分の子供を産んでほしくないのだろう。

もし本当にあの紗希という女性が好きなら、私だって喜んで身を引くのに。ここまで残酷に私を欺く必要なんてないじゃない。

薬を飲み干すと、瑛翔は私の口元に残った雫を優しく拭ってくれた。

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