愚かな裏切り者と冷徹当主の寵愛第1話
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空港での迎え。そこで私は二年間も結婚から逃げ出し、義妹に付き添ってA国でサファリ旅行に興じていたはずの工藤健二(くどう けんじ)と鉢合わせした。
私はサングラスをかけていたが、彼の方は人混みの中で一瞬にして私に気づいた。
「梨花、君を娶りに戻ったよ」
私はレンズ越しに戸惑いの視線を送った。「どちら様でしょうか?」
健二は困ったように笑った。
「ほら、いい子だから機嫌を直せよ。わざと結婚から逃げ回っていたわけじゃないんだ。美月がどうしても写真に収めたいって聞かなくてね。俺にとってはたった一人の妹なんだ。甘やかしてやるのは仕方ないだろ?
ようやく二年にわたる撮影を終えて、婚約を果たすために急いで帰国したんだ!」
目の前に立つ、日焼けして痩せこけ、白い歯を覗かせるこの男がかつての婚約者であることにようやく気づいた。
けれど……
まさか誰も彼に教えていないのかしら。彼が結婚から逃げ出したまさにその日、私、浅井梨花(あさい りか)が彼の叔父に嫁いだっていうことを。
* * *
空港での迎え。そこで私は二年間も結婚から逃げ出し、義妹に付き添ってA国でサファリ旅行に興じていたはずの工藤健二(くどう けんじ)と鉢合わせした。
私はサングラスをかけていたが、彼の方は人混みの中で一瞬にして私に気づいた。
「梨花、君を娶りに戻ったよ」
私はレンズ越しに戸惑いの視線を送った。「どちら様でしょうか?」
健二は困ったように笑った。
「ほら、いい子だから機嫌を直せよ。わざと結婚から逃げ回っていたわけじゃないんだ。美月がどうしても写真に収めたいって聞かなくてね。俺にとってはたった一人の妹なんだ。甘やかしてやるのは仕方ないだろ?
ようやく二年にわたる撮影を終えて、婚約を果たすために急いで帰国したんだ!」
目の前に立つ、日焼けして痩せこけ、白い歯を覗かせるこの男がかつての婚約者であることにようやく気づいた。
けれど……
まさか誰も彼に教えていないのかしら。彼が結婚から逃げ出したまさにその日、私、浅井梨花(あさい りか)が彼の叔父に嫁いだっていうことを。
空港の人波の中、健二は片手に高級ブランドのバッグを提げ、もう片方の手でスーツケースを押していた。
彼と同じようにすっかり肌の黒くなった佐藤美月(さとう みづき)はあのスーツケースの上に座っていた。
A国に二年もいたせいで、二人はまるで炭鉱で働いてきたかのように真っ黒だ。
昔の健二は色白でハンサムだったし、スタイルも良かった。そうでなければ、私だって政略結婚に同意なんてしなかった。
だが、今は……
本当に……私の夫でなくてよかった。
私はサングラスを外し、事務的な微笑みを浮かべた。
「あら、久しぶり。あまりに様変わりしてたから、一瞬、誰だか分からなかったわ」
美月は相変わらず皮肉をぶつけてくる。
「何が分からないよ、わざとらしい。健二を待ちわびて迎えに来たくせに。
私と健二が出国して、国内との連絡を絶っていなかったら、あなたはA国まで追いかけてきたに違いないよね。
健二、本当に気が知れないわ。顔以外に何の取り柄もない女をわざわざ娶ろうとするなんてね」
美月はぷいと横を向いた。
健二は美月の頭をわしゃわしゃと撫で回すと、困ったように彼女の鼻の頭をちょんと突いた。
「梨花と結婚したら、彼女は君の義姉になるんだ。敬意を払いなさい。
でないと、来年は海外旅行には付き合ってやらないからな」
美月をなだめた後、健二は私に向き直って説明を始めた。
「彼女はただ子供じみたわがままを言ってるだけなんだ。知っての通り、彼女の父親は交通事故から俺を庇って亡くなった。俺のせいで、彼女は父親を失くしたんだ。
結婚したら、俺たちは夫婦として一心同体だ。君には俺の代わりに彼女を愛してほしい。実の妹だと思ってな」
この男は何を寝言のようなことを言っているのだろうか。
私は優雅に白目を剥き、指輪をはめた手を彼にかざした。
「健二、あの時私を捨ててくれて感謝してるわ。おかげで、あなたなんかより万倍も素晴らしい男性と結婚できたもの。
自惚れないで。今日、私が迎えに来たのは私の夫よ」
健二は呆然とし、しばらく私を見つめた後、眉を上げて笑った。
「梨花、俺をバカにしているのか?
工藤家と浅井家の二年前の結婚式は社交界全体を騒がせた。名家の人々はみんな参列していたんだ。君が俺の婚約者だということは誰もが知っている。
逃げて君に恥をかかせたのは俺が悪かった。けど、評判がた落ちの君を、工藤家以外に誰が引き取るっていうんだ?」
なぜ彼が平然と結婚から逃げ出せたのか、ようやく腑に落ちた。私が捨てられた女となり、自分以外に縋る相手などいないと高を括っていたのだ。
まったくだわ。彼は自分の価値を高く見積もりすぎだし、私のことを安く見すぎている。
健二の祖父の工藤宗一郎(くどう そういちろう)は、健二の不始末の尻拭いのために、今の実権を握る実の息子を私と結婚させた。
それに、浅井家の怒りを鎮めるために、宗一郎は健二に分配されるはずだった株を、私に譲ると自ら申し出た。
どうやら、健二は何も知らないらしい。
無理もない。
美月のわがままに付き合って二年間も音信不通だったのだ。電話一本すらよこさなかったのだから、知るはずもないね。
ただ、今夜実家に戻ったら、その余裕そうな顔で笑っていられるといいがな。
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