悔やみきれぬまま、愛は焼き尽くされた第3話
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周囲に低い嘲笑が響き渡った。
海斗はただ冷たく私を見下ろしている。
かつての私のように、酒を彼の顔にぶちまけるのを待っているかのようだった。
しかし、私はそうしなかった。
プライドなんて、生活という重荷にとうの昔に踏み潰されている。
希が生きられるなら、それでいい。
私は何の迷いもなかった。
皆が息を呑む中、床に深く膝をついた。
そしてゆっくりと手を伸ばし、袖口で莉奈の靴先を少しずつ拭き始めた。
「浅川様、お拭きします……
綺麗にしたら、チップをいただけますか?」
会場は静寂に包まれた。
その時、海斗の手にあったグラスが音を立てて砕け散った。
酒がガラスの破片と共に彼の手に突き刺さった。
彼は信じられないものを見るような、激しい怒りに満ちた目で私を凝視していた。
かつてあれほど誇り高かった女が、金のために本当に膝を屈したことが、彼には耐え難かったのだろう。
莉奈も、私が本当に跪くとは思っていなかったようだ。
一瞬呆然とした彼女だったが、すぐに私の手の甲をこれでもかと力任せに踏みつけた。
「あ……っ!」
あまりの激痛にうめき声が漏れ、痛みが神経を通って脳天を突き抜ける。
けれど、手を引く勇気はなかった。
今ここで手を引けば、1000万円が消えてしまう。
私は激痛に耐え、彼女が何度も踏みつけるままに任せた。
「あらぁ、佐藤さん、手が硬すぎて私の足が痛くなっちゃうんですわ」莉奈は甘えるような声を出しながら、さらに力を込めて踏みつけた。
周囲のひそひそ話が大きくなった。
「さすがにやりすぎじゃないか……」
「知里だって、元はお嬢様だったのに」
見ていられず、顔を背ける者もいた。
「もういい!」
海斗が突然叫び、莉奈を突き飛ばした。
そして私の襟首を掴み、床から強引に引きずり上げた。
「佐藤知里、そんなに金が欲しいのか!
プライドも捨てて、踏まれてまで金が欲しいのかよ!」
彼は私に怒鳴り散らし、その飛沫が私の顔にかかった。
彼の掌に刺さったガラスの破片が痛々しい。
けれど、私の心はとっくに麻痺していた。
私は泣き顔よりも無様な笑みを無理やり浮かべた。
「藤原社長……靴、綺麗になりました」踏みつけられて血まみれになった手を、掌を上に向けて差し出した。「チップ……いただけますか?」
海斗の瞳が激しく揺れた。
「金……どこまでも金か!
なぜ謝ることも、折れることもできないんだ!」
私は視線を落とし、込み上げる血の気を抑え込んだ。「藤原社長、1000万円を……」
すると彼は、懐から小切手帳をひったくるように取り出した。
なぐり書きされたその数字は、2000万。
彼は小切手を破り取ると、私の顔に思い切り叩きつけた。
「くれてやる!持ってけ!」
小切手の端が私の目尻を切り裂いた。
頬を伝った鮮血が小切手の上に滴り落ちる。
震える手で、その紙切れを掴み取った。
それは希の命そのものだ。
これがあれば、希はずっと私のそばにいてくれる。
たとえ、私の血が、海斗の血が混じり合って汚れていようとも。
私は小切手を宝物のように、大切に胸の内にしまい込み、心臓に押し当てた。
「藤原社長、ありがとうございます。ありがとうございます」
私は海斗に向かって深く頭を下げた。
それから立ち上がり、よろめきながら外へと駆け出した。
背後からは、海斗の狂ったような怒号が響いた。
「消えろ!金を持って俺の目の前から消え失せろ!二度とその面を見せるな!」
私は耳を貸さなかった。
ただ早く、一刻も早く。
希が待っている。
会場の大門を飛び出した瞬間、莉奈が私の前に立ちはだかった。
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