息子の命と引き換えに、あなたは全てを失った第3話
この話は約1542字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
肩の激痛に構う余裕もなく、私は起き上がり、再び跪いた。
「言われたとおりにしました。だからもう……救急車を通してもらえますか!」
夏子はスマホをしまうと、不満げに唇を尖らせた。
「ごめん、やっぱりやーめた。
なんか気持ち悪くなっちゃったし。
弁護士が来るまで、大人しく待ってなさいよ」
私の中で、何かが完全に切れた。
「この、悪魔っ!」
私は勢いよく立ち上がると、子を守る雌ライオンのように夏子へ飛びかかった。
両手で彼女の首を思い切り締め上げ、ポルシェのボンネットに押さえつける。
「救急車を通して!息子を助けて!お願いだから!」
夏子は悲鳴を上げた。
「人殺し!誰か助けて!」
ボディガードが2人、すぐさま駆け寄り、左右から私の腕を強く押さえ込んだ。
そのまま力任せに、私の体を宙吊りにする。
「離して!この人殺し!」
私は必死に両脚をばたつかせた。
リーダー格の男が冷ややかな目で近づいてきた。
「情けをかけてやったというのに、身の程を知らん女だ」
彼は革靴の硬い爪先を振り上げると、容赦なく私の右膝に蹴りを入れた。
ゴキッという鈍い音。
神経を引き裂くような激痛が、一瞬で全身を駆け抜けた。
私は悲鳴を上げ、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
右脚は、不自然な角度に折れ曲がっていた。
冷や汗が瞬く間に全身を濡らしていく。
夏子は首をさすりながら歩み寄ると、私の頬を平手で打った。
「このクソ女!よくも私に触ったわね!
あんたたち、ぶちのめしなさい!死んだって私が責任を取るから!」
その時だった。
人垣の外から、激しい騒ぎが起こった。
「突っ込め!くそっ、何かあっても俺が全部責任取る!」
荷物を満載した大型トラックが突然エンジン音を轟かせ、道を塞いでいた黒塗りの大型バンに突っ込んでいった。
ドンッ!
凄まじい衝突音が街中に響き渡る。
バン2台の間に、大きな隙間ができた。
トラックを運転していた男が車から飛び降り、手には大きなスパナを握っていた。
「刑務所に入ることになったって構うもんか!この畜生どもが子供を見殺しにするのを黙って見ていられるか!」
その瞬間、人々の怒りに火がついた。
数十人の通行人が一斉に押し寄せ、体当たりでボディガードたちの壁を突き崩す。
「早く!救急隊の人たちを通して!」
救急隊員たちが救急バッグを抱えて全力で駆け込んできた。
すぐに勇人へ酸素マスクを装着し、担架に乗せる。
「出血がひどい、瞳孔の反応も鈍い!一刻も早く病院へ搬送しないと!」
私は折れた脚を引きずりながら、地面を這うようにして担架の縁にすがりついた。
「お願い……助けてください……っ」
救急隊員は目を赤くしながら、私も一緒に救急車に乗せてくれた。
車のドアが閉まる間際、夏子が血相を変えて電話をかけているのが見えた。
「社長!あいつら私を殴ったの!しかもあの小僧を明徳病院に運んだのよ!
絶対に痛い目見せてよね!」
電話の向こうから、章平の低く冷ややかな声がスピーカー越しにはっきりと聞こえてきた。
「大丈夫だ、俺がすぐに手を打つ。
明徳病院は、うちのグループが100%出資している病院だ。
約束する。今日、あの病院では誰にも手術させない」
救急車は帰宅ラッシュの渋滞を、狂ったように縫って走る。
甲高いサイレンの音も、私の早鐘のように打つ心臓の音を消してはくれなかった。
勇人は担架に横たわり、小さな顔は紙のように白くなっていた。
心電モニターの波形はどんどん平坦になり、警告音がまるで命を急かす音のように鳴り続ける。
「血圧、さらに低下!
すぐ輸血が必要だ、明徳病院の輸血部に連絡!Rhマイナスの血液を用意させろ!」
救急隊員が無線機に向かって怒鳴った。
私は勇人の冷たくなっていく小さな手を握りしめ、涙を手の甲に落とし続けた。
「勇人、もう少しだけ頑張って。すぐ病院に着くからね」
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