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思い出の中にだけ、いてほしい第3話

この話は約1893字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

お腹の子は、私と竜也が別れないようにと、神がくれた思し召しってこと?

それとも、この壊れかけた関係に、最後にもう一度だけ修復のチャンスをくれているのかな?

一方、竜也は傍でりんごを剥いていた。刃が皮を滑る、かすかな音を聞きながら、私は目を閉じた。

キャンドルライトの下で睦月のためにステーキを切ったその手が、今度は病室で私の父のためにりんごを剥いている。

竜也のどの顔が、本当の彼なんだろう?

それとも、竜也には真心なんてなくて、全部演技なんだろうか?

そう思っているとスマホが一度、震えた。

開いてみると、睦月からの新しい投稿だった。

写真の中の彼女は白衣を着て、手術室のドアの前に立っていた。添えられた文章はこうだ。【横山先生の元でたくさんのことを学ばせてます。感謝します】

コメント欄には【横山先生って誰?】という質問があった。

睦月は返信していた。【うちの病院で一番腕の立つ心臓外科のエースで、すっごく優しい人よ】

私はその写真をじっと見つめ、写真の中で無邪気に笑う睦月の顔がやけに目につくように思えたのだ。

すると、竜也も顔を寄せてきた。「何を見てるんだ?」

私はとっさに画面を消して、スマホを太ももの上に伏せた。「別に」

竜也はリンゴを剥き終えると、小さく切り分けて爪楊枝を刺した。「お父さんが目を覚ましたら、食べさせてあげて」

だけど、私はそのリンゴの皿を見ていると、急に吐き気がこみ上げてきた。

つわりじゃない。心の底から湧き上がってくるような、嫌悪感だった。

一晩中悩んだ末、私はお腹の子を産むことに決めた。

入院手続きをする時、私は竜也に、疲れているから少し休養が必要なだけだと言い訳をして伝えた。

父にはプロの介護士を二人雇い、さらに親友で弁護士の村上凛(むらかみ りん)にも来てもらうことにした。

凛は気が強いから、竜也はいつも彼女には頭が上がらないのだから、凛がいてくれれば、竜也も父の病室でこれ以上お芝居を続けられないだろう。

産婦人科の個室はとても静かだった。私はベッドに横になり、下腹部に手を当てて目を閉じて休んでいた。

突然、ドアが開けられた。

目を開けると、ドアのところに睦月が立っていた。

彼女はピンクのワンピースに着替えて、ばっちりメイクをしているのだった。

そして、ぽかんとした私の顔を見て、睦月は笑った。その笑顔は得意げな色に満ちていた。

「絢香さん、体調が悪いんですって?」

睦月は部屋に入ってくると、ドアを閉めた。

「子供も産めない体なんでしょう?」

それを聞いて、私は体を起こして、睦月を睨みつけた。

「横山先生は、男の子が欲しいみたいだから」そう言って睦月は首をかしげた。「私が協力してあげてもいいですけどね」

そして、彼女はベッドのそばまで歩いてきて、サイドテーブルの上の水筒を手に取った。

「お水を注いであげますね」

そう言いながら、睦月は熱いお湯をなみなみと注ぎ、私の前に差し出したが、突然わざとらしく手を震わせて、そのまま熱湯を私の布団にかけたのだった。

私はとっさに身をかわしたが、それでもお湯はシーツにこぼれ、白い湯気を立てた。

「あら、すみません、絢香さん」

睦月は笑いながら言った。「手が滑っちゃいました」

それから袖口から細い針を一本取り出した。その針は照明の光を浴びて、冷たく光った。

「ねえ、もしまたうっかり手を滑らせちゃったら……」

そう言いながら、睦月は手を私に向かって伸ばしてきた。

私はあの針を見た瞬間、頭の中の神経がピンと張り詰めた。

そして、体が、思考より先に動いた。

こうして、私は体をひねってそれをかわしたあと、そのまま側面から睦月の下腹部を蹴りつけたのだった。

すると、睦月は悲鳴をあげ、床に倒れ込んだ。

針が床に落ちて、カチンと乾いた音を立てた。

「言い忘れてたけど」私はベッドのそばに立ち、睦月を見下ろしながら言った。「父がね、私がいじめられないようにって、小さい頃から護身術を習わせてくれてたの」

一方で、睦月はお腹を押さえて、顔は血の気がなく、真っ青だった。

「私は、泣き寝入りするような弱い女じゃないのよ」私はそんな彼女を見つめて少し間を置いてから続けた。「そんなクズ男を好きならくれてやっても構わないけど、私の前に現れて不快にさせるのはやめてよね」

一方で、物音を聞きつけた看護師が駆け込んできた。床に倒れている睦月を見ると、慌てて彼女を支えて部屋から連れ出した。

部屋を出る直前、睦月は振り返って憎しみに満ちた目で私を見たあと、彼女はスマホを取り出して誰かに電話をかけた。

そして、病室のドアが閉まったあと、私はベッドに崩れ落ちた。

下腹部に、引きずられるような激しい痛みが走った。

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