忘却の糸:愛と裏切りの光と影第3話
この話は約2052字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
指輪を奪われた後も、明智は相変わらず、【時間通りに食事を取るように】とメッセージを送ってくる。
【体調は大丈夫?】と気遣う言葉もある。
でも、彼は一度も戻ってこなかった。
その時間を利用して、数人の友人と別れの食事をし、これまでの数年間、彼から贈られたプレゼントをすべて捨てた。
スマホやパソコンに保存されていた、彼と関係のあるファイルも、すべて削除した。
そして三日目の朝、私は迷うことなくスーツケースを押して家を出た。
空港へ向かう途中、スマホに直美から送られてきた。
結婚式の様子を捉えた動画が届いた。
それは、私がかつて想像していた通りの光景だった。
彼女は私のために作らせたウェディングドレスを着て、私の名前が刻まれた指輪をはめ、明智の腕を親しげに絡め、周囲の祝福を受けていた。
ある友人が疑問を口にした。
「花嫁は友莉じゃないの?どうして直美さんになってるの?」
すると、明智はすぐに彼女を後ろにかばい、疑いを許さないような声で会場中に響き渡るように言った。
「今日は僕と直美の結婚式だ。関係のない人の話はしないでくれ」
五年間の恋。
その結末が、たったの「関係のない」の文字で切り捨てられた。
その言葉を聞いた時、心のどこかで小さなガラスの欠片が、音もなく砕け散るのを感じた。
けれど、痛みは、なかった。
スマホの画面に映し出された、その結婚式の様子を、撮影した59秒の動画を、最後まで、静かに、じっと見つめていた。
まるで、他人事のように。
そして、その瞬間、私の中で最後に残っていた「須藤明智」という名前の記憶が、風に舞う塵のように、ふわりと消え去った。
かつて、私の心の中で激しく燃え上がり、そして深く刻み込まれたあの名前は、今や、ただの見知らぬ他人のように感じられた。
あの記憶に浸り、苦しんでいた深情も、まるで最初から存在しなかったかのようだった。
私はふと、唇をわずかに動かした。
それは嘲笑でもなく、ただ、すべてが消え去った後の、解放感と確信だった。
そう、完全に消し去ることが、こんな感覚なのだ。
何もかもが、空白で、軽やかで、何の重荷もない。
私は知らない、その時、会場ではダニーが大暴れしていたということを。
明智と直美が、ついに指輪を交換しようとしたその瞬間、ダニーはグラスのワインを、明智の顔にぶちまけた。
「何しに来たの?友莉は?」
明智は、スーツに広がる赤い染みを見て顔を歪めたが、相手がダニーだと気づくと、怒りを押し殺した。
ダニーは手を拭きながら、冷笑を浮かべた。
「このクズ男とその女を、ぶちのめしに来たの。
友莉の目なんて、穢したくないから自分で来たのよ」
「何を言ってるの?」
明智は、すでに涙声になりかけている直美を後ろに庇いながら、顔を曇らせた。
「誤解だよ。友莉にはちゃんと説明した。僕たちは話し合った。彼女は僕と直美の結婚を受け入れたんだ」
「だからって、彼女の記憶を無理やり消したの?」
ダニーの声が、冷たく尖った。
「須藤明智、あんたは、本当に思い込みの激しい大馬鹿さんね。
あの薬、一瞬で記憶が消えるとでも思ったの?
違うよ、あれはただ、心の中で最も大切にしている記憶を、少しずつ薄れさせていくだけ。
あんたがこの三日間やったこと、友莉は全部、はっきりと覚えているのよ」
「バカな!そんなはずない!」
明智の顔色が、一気に紙のように白くなった。
「あの報告書には、『一時的に最愛の人の記憶を忘れさせる』って、書いてあったはずだ!」
でも、彼は言葉を続けられなかった。
そこには、「即座に」という言葉は、どこにも存在しなかったのだから。
彼は直美の手にはめられた、本来私のものだった指輪を見つめ、目尻が赤くなっている。
そして、自分の頬を打ち据え、震える手でスマホを取り出し、研究所に電話をかけようとした。
「大丈夫、解薬がある。友莉が解薬を飲めば、全部元通りになる!僕に、許してくれる。僕を愛してくれる彼女なら、きっと許してくれるはずだ!」
「無駄よ。あの薬は、友莉が開発したもの。解薬なんて、存在しないの」
ダニーは容赦なく、彼の希望を打ち砕い、そして顎を上げ、冷ややかに彼を見下ろした。
「つまり、あんたは自分の手で、二人の愛の記憶を消し去り、友莉にあんたを永遠に忘れさせたってわけね」
その言葉が、明智の最後の希望も粉々に打ち砕いた。
彼の顔には血の気がなく、声は震えていた。
「違う!僕は、そんなつもりじゃ……!
僕は、友莉を傷つけたくなかった!
僕は、友莉を愛してる!僕は、友莉だけを……!」
彼は、必死にスマホの一番上の連絡先を呼び出し、指が震えるほど何度もダイヤルを押す。
だが、応答はない。
その瞬間、彼の心はまるで大きな手に掴まれたかのように、激痛で腰を折るほどに締め付けられた。
ダニーは、苦しんでうずくまる明智と、地面にうずくまる直美の情けない様子を見て、満足げに微笑んだ。
「探したかったら、無理よ。
あんたが他の女と指輪を交換しているその時、友莉はもう、あんたの世界から、完全に消えていたの。
須藤明智、あんたは、永遠に彼女を失ったんだよ!」
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
R76807- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。