忘却の糸:愛と裏切りの光と影第2話
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電話を切ると、私は無意識に、明智との部屋へ戻った。
だが、かつて二人で使っていたその部屋に、彼のものは、どこにもなかった。
その時、私はようやく気づいた。
この「役割を交換する芝居」は、気まぐれな思いつきではなく、最初から計画されていたのだ。
さっきこすれて擦りむいた肩を押さえながら、胸の奥が苦しくなるのを感じた。
昔、私が彼のためにスープを煮て、指先を少し火傷しただけで、彼は半日も心配して、どうしても医者を呼ぼうとしたものだ。
私は彼を大袈裟だと笑ったが、彼はうつむき、私の手にキスをして、優しく囁いたものだ。
「友莉、君は僕の宝物だ。僕が君を娶ったのは、君のために尽くすためだ。辛い思いをさせるためじゃない。君が痛むなら、僕はその何倍も痛む!」
でも今、彼は私を傷つけ、それを平然と見過ごしている。
まるで、私が人生で一番大切にしていたウェディングドレスが、最終的に別の女に着られるように。
薬を塗りながら、親友のダニーから電話がかかってきた。「友莉!何が起きたの?三日後はあんたの結婚式でしょ?
どうしてH国行きの航空券なんて予約してるのよ?」
一瞬の沈黙の後、私は、ポツリと呟いた。
「結婚式は、もうない……」
自嘲気味に唇を吊り上げ、「忘却の薬」のことを話した。
次の瞬間、電話の向こうから、怒声が炸裂した。
「友莉!待ってなさい、今すぐ行くから!あのクソ野郎と浮気女、ぶっ飛ばしてやる!
あの時、あんたが自分の研究成果で須藤明智のクソ会社に投資してくれなかったら、あいつは事業に失敗し、もう家族に見放され、路頭に迷ってたのよ!
それを今や成功して、女に惚れやがって、あんたを差し置いて、薬なんて飲ませるなんて、ふざけるな!本当に腹が立つ!あの畜生が!」
過ぎ去った日々が、次々と脳裏に浮かび上がり、私は目頭が熱くなるのを感じた。
あの時、彼が事業に失敗し、家族に見捨てられた時、彼を信じて、全てを賭けた。ためらわずに、自分の研究成果と、資金、人脈すべてを注ぎ込み、彼を再起させ、須藤グループの後継者にしたのだ。
そして、最も辛かった三年間、私は彼と共に、深夜から黎明までを過ごし、必死に支え続けた。
彼は何度も、何度も私に誓った。
「君は僕の唯一のお宝だ。僕が生涯をかけて愛する妻だ」
でも、なぜか、彼は次第に他の女のことを気にし始めた。
彼の優しさと情けは、どうして私の愛で支払われなければならなかったの?
ダニーは明智を罵倒し続けて30分、ようやく疲れたのか、少し沈黙した後、ふっと笑った。
「でもさ、友莉、あのクズ野郎は、解薬がないこと、知らないんでしょ?
ふふっ、想像してみて。あの男が、後で気づいて、泣き叫んで、必死にあんたの名前を叫んで、でもあんたが、平然と『お前は誰?』って聞き返す姿……
きっと、超カッコ悪いと思う」
彼女の言葉で、私の胸がぎゅっと締め付けられたような痛みの中に、どこかほっとする温もりも混ざっていた。
その瞬間、私は、思わず笑ってしまった。
眠れない夜になると思っていたのに、気づけば、ゆっくりと眠りに落ちていた。
そして、目が覚めたのは、夜明け前。目を開けると、誰かの手が、私の手首を優しく掴んでいた。
視界がぼやける中、ゆっくりと顔を上げると、明智が、私の指から、何かを外そうとしていた。
「何してるの?」
私の声に、彼の動きが止まる。
一瞬、言い訳を探すように視線を泳がせ、それから私に半分ほど飲まれたコップの水を差し出した。
「起きたの?喉が渇いたのでしょ?」
私は彼の言葉を無視して、聞き返した。
「何してるの、って聞いたの!」
彼は、少し困ったように鼻を掻き、言い訳を探すように言った。
「ああ、これは、直美の婚約指輪だ。結婚式で使うものだから、返さなきゃいけない」
嘘をつく彼を見て、私は、言葉を失い、ある種の皮肉を感じた。
彼は直美のために、私を馬鹿にして弄んでいる。
はっきりと覚えている。
あの時、私がふと「指輪のデザインはどれも似たようなもので、新鮮味がない」と呟いただけで、彼はすぐに私のために、自ら手がけてこの指輪を作ってくれたのだ。
独特な桔梗の花をモチーフにしたデザインで、インナーには私と彼の名前のイニシャルが刻まれていた。
「これは、君だけに向けた、僕の唯一無二の愛の証だ」と、彼は言った。
でも今、彼はこの指輪を騙し取り、別の女の願いを叶えるために渡そうとしている。
可笑しくなって、わざと聞いた。
「あなたたちの婚約指輪が、どうして私の指にあるの?」
彼は、一瞬言葉に詰まり、それからわざとらしく眉をひそめた。
「友莉、冗談はやめて。君が気に入ってるなら、結婚式の後で、新しいのを作ってあげる。
でも、僕は直美に完璧な結婚式を約束した。
だから、この指輪は彼女に返さなきゃいけない」
偽りに満ちたその言葉が、私の心をまた抉った。
私は指輪ができたあの日を思い出した。
明智は完成するなり、私の指にそれをはめようと急いだのだ。
私は笑って、「結婚式でしか付けない指輪なのに、どうしてそんなに急ぐの?」と言った。
「君が逃げないように、早く縛り付けておきたい。
奥さん、永遠に外しちゃダメだよ。約束してね」
彼は真剣な表情で私にキスをして誓った。
でも今、他の女のために、彼はためらうことなく、自ら私の指輪を外した。
私は空っぽの指をなでながら、大きな失望と悲しみに包まれていた。
激しく痛む心を押さえながら、私は呟くように自分に言い聞かせた。
「大丈夫。ただ、捨てられただけよ。この二日が過ぎれば、きっともう痛くないから」
夜が明け、新しい一日が訪れようとしている。
かつて私が大切にしていた記憶、愛、約束は、もう、ほんのかすかな塵となって、風に舞い散っていた。
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