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心に染み付いた感情に気付いた時第3話

この話は約2685字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

言葉を聞いた瞬間、康穂の顔色が一気に真っ青となった。

昭宇のサディスティックな嗜好と彼の別荘で変死した数名のキャバ嬢の噂を思い出して、彼女は唇をきつく噛み締めた。

しかし、すぐに自分を安心させようと考え始めた。

彼女はそれはありえないと予想していた。

この数年間、彼女はあくまでも替え玉として司の傍にいるのだが、彼は言葉がキツイ以外、一度も彼女を傷つける事はなかったと思い出したからであった。

だがそれでも不安を抑え込むことは出来なかった。

あのブレスレットは環奈がデザインしたものである、環奈と関わることになったら司はいつも人が変わったように何をするか分からなくなるからだった。

昭宇に待つ忍耐などなく、わざとらしく、値段を釣り上げようとするふりを始めた。

「断ったら、俺はとことんやり合うつもりだぞ、確かあれってお前の愛してる奴がデザインした物だな。もしそれが俺の手に入ったら、ソープ嬢達に送ってやるさ、彼女達がそのブレスレットを付けてどんなプレイをしてくれるのか楽しみだな」

「出来るとでも!」

司の顔が一瞬で険しくなった。

二人は長年いがみ合ってきた同士、司には昭宇の怖いもの知らずの性格はもちろん知っていた。

熟考の末、司は決定を下した。彼は冷たく康穂の背中を押し、昭宇の懐の中へと送り込んだ。

「たかが替え玉ごとき、好きにすればいいさ」

美人を手に入れて、昭宇の口角は上がっていた。

康穂はまるで雷に打たれるような気持ちとなった。「司さん……」と震え声で司の名前を口に出すことしかできなかった。

だが司は彼女には目もくれずに、ただ台に上がり、大事そうに環奈がデザインしたブレスレットを受け取るのだった。

一方昭宇はとっくにオークションがどうでもよくなり、ただ懐の中で必死に抗ってる康穂を強く抱きしめて、口笛を吹きながら外へと走り出した。彼は興奮しながら康穂に言葉を投げつけた。

「美人さんよ、お前の主人はお前を捨てたんだ、俺と一緒に来いよ。今晩は忘れられない夜にしてやるぜ」

オークション会場から連れ出されて、エレベーターへと押し込まれた康穂の目にはとうとう司の姿が見えなくなった。その時、彼女の心の中にある僅かな希望も一緒に消えてなくなった。

彼女はただ雪原に放り投げられた様に冷たく感じ、震えと冷汗が一時も止まらなかった。

オークション会場の上がホテルで、昭宇はドアを開いてから、すぐ彼女をベッドに押し倒す、そして自分のボタンを外し始めた。

康穂は思い切り彼の手を噛み、彼が痛がる隙に逃げ出そうと思っていたが。

ドアにつく前に、彼に捉えられてソファーに押し込んで、服をはだけさせられた。

「何を逃げようとしてんだ?俺の何が不満なんだ?司の奴の心には環奈しかいない、振られて3年も経つのに、まだ忘れられていないんだぞ。環奈が戻ってきたらお前はすぐに奴に捨てられるんだ、なら一層俺の物になったらどうだ」

「放して!放してください!」

康穂は全ての力を振り絞ったが、少しも昭宇には効かなかった。

涙がポロリと落ちてきたが、彼女は歯を食いしばり、泣き声をこぼさなかった。

康穂のヒールを脱ぎ捨てたら、昭宇はもう待ちきれないと言わんばかりに、視線を降ろして、彼女の服を破り始めた。

昭宇が視線を外した隙に、康穂は机の上にある花瓶を昭宇の後頭部にめがけて思いっ切り振り落とした。

ドンという鈍い音が鳴った後、破片が飛び散った。

同時に昭宇も地面に倒れ込んだ。

まだ生ぬるい血がポタポタと落ち、彼女の真っ白なスカートを赤色に染めた。

彼女はぎこちない動きで気絶した昭宇を体からどけて、気力振り絞って廊下を駆け抜けた。

エレベーターの扉が閉まる瞬間、彼女は扉の向こう側のボディーガードの姿が見えた。慌てふためく彼女は必死に1階のボタンを何度も押し続けた。

ビルからなんとか逃げ出したが、康穂は一刻も早くここから離れたいと思い、慌てて道路で車を呼び止めることにした。

ビルの入り口についたら、見慣れたマイバッハの車が目に入り、彼女はすぐに助けを求めるために駆け寄った。

「司さん、扉を開けてください、もうすぐ新尾が追ってきますから、お願いだから、助けてください」

彼女は彼を最後の希望としてすがり、消え入りそうな声で彼に助けを求め。

だが、司は彼女に手を差し伸べることはなかった。

車のウィンドウを隔てて、彼から聞こえたのは冷たい言葉だけだった。

「自分でなんとかしろ」

康穂は絶望した。

彼女には分かっていた、昭宇はもうすぐ手下を引き連れて追ってくる、今できるのは広場を沿って、大通りの横に逃げることしか出来ないと。

裸足にはガラスの破片が刺さり、無数の傷を作り出していた。地面にはその傷口によって出来た真っ赤な足跡が並べられていた。

彼女はまるで針山の上で踊る人魚のように、痛みで倒れそうになりながらも、足を止めること出来なかった。

彼女の姿が完全に見えなくなった後、司のアシスタントは我慢できずに口を開いた。

「司様、貴方は既に康穂さんのためにボディーガードを用意していました、たとえ彼女が自分の力で逃げ出せなくても、ボディーガードが突入して助けたのですよね。さっき車のドアを開かなかったのも、何よりも先に新尾昭宇を懲らしめるためだったのですよね。どうして彼女にそれを伝えないのですか」

司はただ冷たい視線をアシスタントに向けただけで、言葉は発さなかった。

機嫌が悪そうな司を見て、アシスタントも言葉を続けることはなく、ただ従順に車の扉を開くだけだった。

ホテルに入り、さっきまで康穂がいた部屋へと入った司は床一面の血を見て、少し顔をひきつらせた。

少し間が空いて、彼は手を振って指示をだした。「こいつを新尾家の入り口に捨てておけ、それと今日こいつがやった汚いことを、新尾家の当主にも伝えておけ」

昭宇の頭は衝撃でまだぼんやりしていて、意識を失いかけているが、入ってきた人の顔ははっきりと見極めた。

彼は最後の力を振り絞って「立川司、本当にあんな……女のために新尾家と敵対するつもりか……」と言った。

司は彼に返事することもなく、ただ彼を冷たく見下ろすだけだった。すぐに部下が入ってきて、昭宇を外に運んでいった。

30分後、司のスマホに執事からの電話が入ってきた。

執事いわく、康穂は家に帰ってすぐ部屋に閉じこもって、中から泣き声が時々聞こえてくるそうだ。

司は少し固まったが、何を言うことも出来ずに、ただ「うん」と答えるだけだった。

アシスタントは彼の冷たい瞳を見て、ため息を漏らした。

「彼女を気にしてることを、どうして彼女に教えないのか」とアシスタントは心の中で嘆くのであった。

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