後悔のない人生を歩もう第2話
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咲夜が再び目を開けた時、すでに正午だった。
陸斗はいなかった。
彼女は目を開けても陸斗の姿を見ない生活に慣れていた。
咲夜は黙ってスマホを充電し、電源を入れた。
スマホが起動すると同時に大量のメール通知が飛び出した。
咲夜は新人が提出した服のデザイン案を一つずつ確認し、的確な意見を返した。
仕事の処理を終えてから、彼女は見知らぬ番号からのメッセージに気づいた。
【話したいことがあります。午後3時、陸斗がよく行く西洋料理店で会いましょう】
署名は水村晴香だった。
咲夜はメッセージを見つめ、指先が少し縮こまった。
晴香はそんなに待ちきれず、陸斗を自分のものだと主張しに来たのか?
2時50分に、咲夜は西洋料理店に着くと、すぐに晴香を見つけた。
淡いメイクにオフホワイトのコートが、彼女を優しく知性的に見せていた。その名にふさわしい雰囲気だった。
咲夜は晴香の向かいに座り、作り笑いを浮かべた。
「晴香さん、最近モデル界で話題の人物だそうですね。今日、私のような無名な服飾デザイナーを呼び出して、一体何を話したいんですか?」
晴香は薄く微笑みながらメニューを差し出し、穏やかな口調で言った。
「咲夜さん、今日は陸斗について、話したいです」
「陸斗」という名前を語尾を上げ気味に呼び、彼女の言葉には親しみと微かな含みを感じさせた。
咲夜は心が揺れたが、表情には出さずに答えた。
「私の夫の話ですか?申し訳ないけど、あなたと話すことは何もありません」
彼女はメニューを取らず、椅子の背にかけたコートを手に立ち上がろうとした。
立ち上がったところで、背後から晴香の声が聞こえた。
「咲夜さんは最近、ファッションショーがありますよね。テーマは確か……初恋でしたね?
じゃあ、知っていますか?陸斗は私をトリに使うことにしたんですよ」
たった一言で、咲夜はほとんど立っていられなかった。
初恋のショーで、彼が……
このショーに咲夜はどれだけの時間をかけて準備してきたか、陸斗が知らないはずがなかった。
トリのドレスは彼女の全力作だった。そもそもこのテーマにしたのも陸斗のためだった。
彼は彼女の初恋だった。
しかし今、その全ての努力が彼の初恋の女性のために使われるとは?
胸にナイフが突き刺さり、心がえぐられた後、一気に引き抜かれるように、血がほとばしる痛みが走った。
「陸斗、あなたは本当に、どうやったら私をもっと痛めつけられるか、よく知っているわね……」
咲夜は西洋料理店から逃げるように出た。
彼女の頭は混乱していた。ふと自分のドレスを思い、さらに晴香の顔を思い浮かべた。しかし結局、思いはあの真っ白な診断書に留まった。
咲夜はスマホのトップにある連絡先に電話をかけた。
「米村(よねむら)さん、時間ありますか?今、そちらに向かいます」
午後5時、咲夜は法律事務所に駆けつけた。
「遺言書を書きたいんです」
咲夜がそう言うと、米村弁護士は驚いた。
しかし弁護士としてのプロ意識から、彼は何も聞かず、静かに記録ノートを開いた。
「どうぞ」
「私の現在の貯金は、私が亡くなった後すべて寄付してください。
そして、雨宮グループの株式は陸斗に返してください。
最後に、残ったデザイン案は……」
そう言うと、咲夜はまだ完成していないドレスを思い出した。
覚悟を決めて、彼女は言葉を続けた。
「全てのデザイン案を破棄してください」
米村弁護士は驚いた。
咲夜は国内で有名なデザイナーだ。トップクラスとは言えなくとも、彼女の服は人気が高く、未完成の作品を破棄するのは惜しいことだ。
だが、彼女の決然とした様子を見て、聞けなかった。
何度も書き直し、夜6時になってようやく終わった。
「他に何かありますか?」
米村弁護士が慎重に書類を差し出した。
「ありがとうございます。お疲れさまです……」
咲夜は書類を受け取ったが、言葉がまだ終わらないうちに、突然、顔色が真っ青になった。
「ゴホン、ゴホン……」
激しい咳のあと、彼女の掌に鮮やかな血が染みついた!
米村弁護士の顔色が変わった。血まみれの手を見て、場数を踏んできた彼でも動揺した。
「江口さん、これは……病院へ行きましょうか?」
咲夜は目を赤くして顔を上げた。
「大丈夫です。水をください」
米村弁護士はすぐに立ち上がり、水を汲んで渡した。
咲夜は手を拭き、バッグから大量の薬を取り出して飲み込んだ。
米村弁護士は心配そうに背中を軽く叩き、彼女の気持ちを落ち着かせた。
「無理なさらず、今日はここまでにしましょう」
咲夜は頷き、少し休んだ後、バッグからいつも携帯している病歴の診断書を取り出した。
「米村さん、これもお願いします。私が亡くなったら、すべて陸斗に渡してください」
米村弁護士は「胃がん末期」と書かれた文字を見て、ようやく全てを理解した。
「わかりました……」
夜は漆黒のように深かった。
白鳥別荘にて。
咲夜は外を長く歩き回り、家の玄関に着いたのはもう10時だった。
一日中、陸斗からの連絡は一つもなかった。
彼は自分のことを全く気にかけていないのだろう。
咲夜は寂しそうにドアを開けたが、思いがけず陸斗がソファに座っているのを見た。
「こんなに遅くに帰ってきたのはなぜ?」
「仕事でいろいろあって、時間を忘れてしまった」
会話はそれで終わった。
陸斗は他に何も尋ねず、ただ咲夜を見つめた。その深い瞳には読み取れない感情が揺れていた。
この沈黙の雰囲気には咲夜も慣れていた。
彼女は陸斗を避けて寝室へ向かおうとした。
だがすれ違いざま、陸斗に腕を掴まれた。
「ちょっと待って」
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