彼氏の初恋に席を譲ったのに、彼は狂った第3話
この話は約1454字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
家に戻り、鏡に映るこの見知らぬ自分を見つめて、私ははっと気づいた。
私はもう三年間も自分を失っていた。
その後の数日、千秋は家に帰らなかった。
私は再び画筆を手に取り、彼から離れて自分の力で生きようと決めた。
作品がまだ完成していないうちに、千秋から電話がかかってきた。
電話の向こうで、甘ったるい女性の声が響く。
「私のギャラリーがオープンするの。瑠衣がちょっとかわいそうに見えるから、仕事のチャンスをあげるわ。
これからは自分の力でお金を稼ぐこともできるでしょ?」
電話の向こうで、千秋はずっと無言。薫はその隙に甘えて言う。
「スマホをちょっと貸して電話をかけることさえ嫌がるくせに、私がやりたいことは何でも応援するって言うの?結局、口だけなんだから。もう!」
千秋は沈黙し、「薫もお前のためだ」とだけ言い、電話を急いで切った。
翌日、私は約束通りギャラリーへ向かった。
薫は約束通り、画家とはまったく関係のない仕事――フラワーアレンジメントを任せた。
「芸術は、複製できない。オーダーメイドでしか存在しないの。
だから、ギャラリーに飾る花籠も花束も、必ず全部自分の手で剪って、組み合わせてちょうだいね」
仕事の準備を終えると、彼女はタイトスカートにハイヒール姿でオフィスに戻っていった。
一日中、私の手は何度も花の棘に刺された。
血が花びらに落ち、より鮮やかに映えた。
まだタバコの火で焼けた手のかさぶたも癒えぬうちに、新たな傷が増え、作業の進みが遅くなった。
夕方、皆が退勤した後、薫がオフィスから出てきた。
私の手で仕上げた作品を見ると、彼女は豪快に200万円を報酬として振り込んでくれた。
「よくやったわ。でも、あなたのセンスには200万の価値はないわね。この200万は千秋と寝る代金だ。三年間、千秋の世話をしてくれたお礼よ。お金を持って、さっさと出て行きなさい」
振り込みの画面を見て、私は嗤った。
千秋に従順であるのは私の務め。だが、目の前のこの女に対しては譲る必要はない。
「分かってるでしょう。私と千秋の関係は私が決めることじゃない。
鈴木さんが戻ってきたのに、彼がまだ私を放そうとしない。なら、彼の考えを変えるべきじゃないの?」
顔を赤らめる薫を見ても、私は何の感情も動かない。
窓の雨が、静かに私たちの駆け引きを見守っている。
ブーブー。
外のクラクションの音が鳴り、千秋が定刻通り彼女を迎えに来た。
薫は「あんた、待ってろ!」と言い、小走りで車に乗り込む。
玄関に立ち、二人が親密にキスするのを見つめると、指先に刺すような痛みが走った。
三年前、父は私の手を取りながら、優しく言ってくれた……
「俺の娘の手は、将来ゴッホのような偉大な作品を描く手になるんだぞ」
当時は自分に才能があり、できると思っていた。しかし、卒業前に家族に災難が降りかかるとは思わなかった。
私は自分を恨んだ。なぜ絵しか描けず、父を助けられなかったのか。
無力感に押しつぶされ、雨の中、誰も見ていないかのように歩いた。
この先、本当にこのままなのだろうかと絶望的に思った。
父の出所は望めず、私はただの愛人でしかないのか。
どれくらい歩いただろうか、頭上の雨が突然止んだ。
見上げると、私はいつの間にかギャラリーの角にある法律事務所まで来ていて、頭の上には誰かが傘を差してくれていた。
「瑠衣?!」
まさかここで三浦悠真(みうら ゆうま)に出会うとは思わず、足を滑らせて彼の腕の中に倒れ込んだ。
驚きと喜びでいっぱいの瞬間、私はまったく気づかなかった。千秋の車が道路の向こうに止まっていることに。
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