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彼は初恋と曖昧な関係、私は静かに去った第3話

この話は約1535字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

スーツに身を包み、深緑のネクタイをした彼は、いつも以上に威厳があった。

彼が手に持っている誕生日ケーキを見て、私はすぐに悟った。

今日は一花の誕生日だ。純一は彼女の誕生日を祝いに行くところなのだ。

電話で、彼はうれしそうに言っていた。「もう、当てっこしても無駄だよ。サプライズだから意味あるんでしょ?とにかく、楽しみにしてて!」

何を言われたのか知らないけど、純一は犬歯を見せて大笑いした。

その笑顔は、私にはもう見せてくれないものだった。

私の姿に気づいた瞬間、彼の笑顔は消えた。

純一は一花には何でも聞き入れながら、私には笑顔一つ惜しむのだ。

彼の顔は一気に曇り、最後まで何も言わず、ただ嫌そうに顔を背けた。

そしてさっさと靴を履き替え、ドアをバタンと閉めて出て行った。

私は知っていた。彼はまた、冷戦状態になる。

これまでも何度も冷戦を経験してきた。その理由は、いつだって一花だった。

そして毎回、私が必死に謝って、媚びて、どうにか修復しようとしてきた。

メッセージを無視されても、厚かましく近づいていった。

でも今は、私はただ静かにネットで海外のレシピを検索し、家で練習していた。

慣れない異国で、まずは食事から慣れていかないと。

ベッドに横になっていたとき、一花が投稿したSNSが目に入った。【今年の誕生日プレゼントも君だった。いつもそばにいてくれてありがとう】

コメント欄には純一の仲間たちのコメントが並んでいた。【感動したよ。一花ちゃんが幸せそうで何よりだ】

その投稿には、純一の友人たち全員が「いいね」を押していた。

彼らは昔から私を見下してきた。私が一花と純一の間に入り込んだ邪魔者だとでも思っているのだろう。

私がいなければ、純一はもっと幸せになれたって、そう思っているのだ。

そしてその下に、純一のコメントがあった。【誕生日おめでとう、俺のお姫様】

彼の友人の言う通りだな、と私は冷めた思いで眺めた。

私は無表情のまま、その甘ったるいやり取りを見つめていた。さらに、別の友人がコメントしていた。【こんなのアップするなよ。早川(はやかわ)が見たら、また大騒ぎになるぞ】

昔、私は何度も純一に伝えたことがある。「吉岡さんとは、少し距離を置いて。異性だし、誤解されないように」

でも、純一の友達は私を「嫉妬深い女」だと笑いものにした。「お前さ、いちいち細かすぎんだよ。友達付き合いまで制限する気かよ?」

純一はそれを否定しなかった。むしろ、「女ならもっと寛大になれ」と私を責めた。

結局、私は彼らの期待通り騒ぎ立てたりはせず、そのSNSを閉じて、ショート動画をぼんやりと見ながら、そのまま眠りに落ちた。

純一が帰ってきたとき、私はすでに眠っていた。だが彼は不機嫌そうに私を起こし、怒鳴った。

「葵、お前さ……彼氏が夜中まで外にいても、心配のひとつもないのか?友達の彼女たちは、何度も電話してくるってのに。お前はどうだ?一本もかかってこねえ。ふざけんなよ、どういうつもりだ?」

私はぽかんと彼を見た。何にそんなに怒っているのか、さっぱりわからなかった。

昔、私が同じように電話をかけていたとき、彼はこう言っていた。「付き合ってるだけで、監禁されてる気分だよ。頼むから、少しは自由にさせてくれ。息が詰まりそうなんだ」

だから、私は放っておいた。すると今度は、「なぜ構わないのか」と怒る。もう、彼が何を求めているのか、全くわからなかった。

けれど、私は過去を持ち出さず、ただ静かに言った。「友達と飲んでただけでしょ?そんな状況で、私が何度も電話したら逆に変だよ。吉岡さんもいるんだし、心配することなんて何もないよ」

純一の目に、一瞬驚きがよぎった。まさか私が一花の名前を、こんな穏やかに口にするなんて、そう思ったのかもしれない。

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