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彼の借りは数えきれない第3話

この話は約2133字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

私は何も言わず、ガラス越しに外を見た。オーダーメイドのスーツに身を包み、冷たいオーラを放つ彰吾。その隣には、パールホワイトのドレスを着た香織がぴったりと寄り添い、二人は楽しげに談笑している。私の胸は、息苦しくなるほど締め付けられた。

十年。この男のために、私は丸十年、戦い続けてきた。

愛のために突き進む、青い少女から、今や中年を迎えようとしてもなお、愛のために踏みとどまる女へ。

そのために、多くのものを逃し、失ってきた。

海外からの高給なオファーを断り、私に言い寄ってきた数多の男性を退け、ただ彼一人に心を捧げてきた。そして、母の最期に立ち会うことさえ、できなかった。

私たちは、共に多くのことを経験してきた。彼も私の気持ちを分かってくれている。私たちは、必ず結ばれるはずだ。そう、ずっと思っていた。それなのに、今……

「結菜さん、もう迷ってる時間はありません」

杏奈が私の思考を遮った。私はしばらく黙り込み、そして静かに言った。

「あなたは、インターンから桐生グループで働いてきたのよ。本当に、ここを去る覚悟があるの?」

彼女はその言葉に一瞬息をのみ、そして黙り込んだ。

倒産寸前の状態から、ここまで。杏奈にとっても、私にとっても、桐生グループという会社は、まるで手ずから育て上げた子供のような存在だ。彼女が離れがたいように、私も、それ以上に離れがたかった。

もちろん、私が何より離れがたいのは彰吾だ。十年も深く愛し、この手で支え上げてきた男。

正確に言えば、私は諦めきれないし、納得もできていなかった。

会社の従業員の大部分は、私が採用し、育て上げた人材だ。彼らは、会社の私に対する仕打ちに強い不満を抱き、それぞれのやり方で抗議の意思を示していた。

例えば、香織が下す指示に対しては、面従腹背を貫くか、わざと仕事を遅らせるなどしてサボタージュする。必要な資料は、いつまで経っても彼女の手に渡らない。

例えば、彼女が社員を取り込もうと食事会を開いても、皆が様々な理由をつけて断り、結局、誰も参加しなかった。

そのために、彰吾は何度も会議を開き、席上で激昂することもあったが、皆、我関せずと我が道を往くだけだった。

そんな状況が、丸半月も続いた。どうしようもなくなった彰吾は、ついに私に会いに来た。

「これは、どういう意味だ?」

私は、彰吾が差し出した小切手を見て、眉をひそめた。

「この数年間、君はよくやってくれた。君がいなければ、今の会社はない。だが、会社も発展していかなければ……」

私は彼を遮り、無表情に言った。

「何か言いたいことがあるなら、はっきり言ってちょうだい」

彰吾は、私の空気が読めない態度に苛立ったようだったが、すぐに怒りを抑え、ため息をついて言った。

「夏川結菜、君も分かっているだろう。君がいるせいで、香織が全く仕事を進められないんだ」

「夏川結菜?香織?」

私は笑って、再び彼の言葉を遮った。その笑いはひどく物悲しく、心の中は、この上なく荒涼としていた。

これまでは、ずっと親しげに「結菜」と呼んでくれたのに。そして、私も彼を「彰吾」と。しかし今、彼は私をフルネームで呼び、あの女のことは、比べ物にならないほど親密に「香織」と呼んだ。

十年間の献身は、結局、初恋の相手の帰還には、敵わなかったのだ。

私の笑みと表情が、彰吾のどこかの神経に触れたようだ。彼は逆上し、私を冷たく見つめて言った。

「君の存在が、会社の正常な運営に支障をきたしている。よって、君には会社を辞めてもらうことにした!

もちろん、君の会社への貢献に報いるために、20億円までなら、この小切手に好きな額を書いていい」

結果はすでに予測していた。しかし、彼の口から直接その言葉を聞くと、私の体は思わずぐらつき、信じられないという思いで目の前の男を見つめた。

「なんですって?」

彼はお金が少ないと思ったのか、途端に不機嫌になった。

「会社が今日あるのは、君の功績が計り知れないものであることは認める。だが、人間、あまり調子に乗るべきじゃない。貧しい学生だった君が、十年で20億円を手に入れるなら、それはもう、ぼろ儲けだろう」

ぼろ儲け!?

十年も愛した男の口からその言葉を聞いて、私の心は引き裂かれそうになった。痛くて、息もできない。それでも、まだ諦めきれない気持ちがあった。

「私は、海外からの高給なオファーを断って、倒産寸前のあなたの会社に飛び込んだのよ。丸十年、青春も何もかも捧げて、あらゆる苦労を味わって、命を落としかけたことさえあった。それなのに、あなたは、私がただお金のためにやってきたと思っているの?」

彰吾は社長椅子に深くもたれかかり、私を冷たく見下ろし、その口元には嘲笑が浮かんでいた。

「違うとでも言うのか?

君のような貧しい育ちの女は、チャンスを掴んで、輝かしい未来に賭けたいだけだろう?君は、その賭けに勝ったんだ。20億円という見返りは、十分すぎるほどだ。身の程をわきまえることだな!」

とくもそんなこと言えたな。彼は、心の底では、最初からずっと、私のことを見下していたのだ。どうりで、いつまで経っても私を副社長に任命しようとしなかったわけだ。私には、その資格がなかったのだ。

この十年、私は本当に、すべてを捧げる相手を間違えた。

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