彼の借りは数えきれない第2話
この話は約1805字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
「桐生社長、結菜さんは会社のために多大な功績を上げてきました。肩書きは部長ですが、実際には副社長の仕事をこなしてきたんです。上場するというこのタイミングで、突然、副社長を天下りさせるなんて、あまりに酷すぎませんか?」
「そうですよ!結菜さんがいなかったら、今の桐生グループなんてなかったんです!彼女を副社長に任命しないなんて、私が断固として反対します!」
長年、私と共に戦ってきた同僚たちが我慢できなくなり、次々と私のために抗議の声を上げた。
彰吾の顔が、みるみるうちに険しくなる。彼は会議室をぐるりと見渡し、冷たく言った。
「俺が社長か、それともお前たちが社長か。俺の決定に、お前たちの同意が必要だとでも?」
そう言うと、彼はまっすぐに私に視線を向け、表情を和らげた。
「君が快く思っていないのは分かっている。だが、香織は海外帰りだ。経済学の博士号も持っているし、上場企業の経営にも精通している。あらゆる面で、君より優れているんだ。これも会社の発展を思ってのことだ。十年も俺に付き添ってくれた君なら、理解してくれるだろう……」
私は、彰吾のもっともらしい言い訳を遮り、冷笑した。
「そんな建前はもういいわ。彼女が、あなたの幼馴染で初恋の相手だからじゃないの?」
彰吾は私の大学の先輩だ。眉目秀麗で、家柄も良く、大学中の女子学生の憧れの的だった。
彼には幼馴染の初恋の相手がいて、二人は燃えるような恋をしたが、何らかの理由で、相手は高校卒業後に海外へ渡ったと噂されていた。
一度、酔った彰吾を家まで送った時、彼がずっと「香織」という名前を口にしていたことがある。だから、先ほどその名前を聞いた時、私の中ではすでに答えは出ていた。
容赦なく本心を暴かれ、彰吾の顔は一瞬にして気まずそうに歪み、すぐさま私に軽蔑に満ちた視線を向けた。
「その通りだ。彼女は俺の初恋の人だ。だが、俺の言ったことに何か間違いがあるか?
はっきり言わせてもらうが、会社はもうすぐ上場する。君の能力、学歴、そのどちらを取っても、副社長という役職には相応しくない。それに、俺がこの数年間、副社長の席を空けておいたのは、他でもない、彼女のためだ!」
彼の言葉を聞いて、私の体はぐらりと揺れ、もう少しで倒れるところだった。
その瞬間、心の中にあった最後の一縷の望みが、粉々に砕け散った。
以前、彰吾が私にくれた説明は、こうだった。私を副社長にしないのは、下の者たちとの間に距離ができてしまい、社員の団結を妨げるからだと。
当時の私は、馬鹿正直にそれを信じていた。
この瞬間、彼が自らの口で真実を語るまで。私は、この十年という歳月が、踏みにじられるだけのものだったのかもしれないと、そして、彼の心の中で、私には大した重みなどなかったのかもしれないと、ようやく気づいた。
一瞬にして、怒り、悲しみ、無念……数えきれないほどの複雑な感情が、私の全身を駆け巡った。
何の相談もなしに、幼馴染を副社長に据えたことが、この十年、会社に心血を注いできた私の献身に対する否定と侮辱であるならば、副社長の席を十年も空け、ただ幼馴染のために取っておいたというのは、彼への十年間の愛に対する、冒涜だ!
会議は、私が怒りに任せてドアを叩きつけて部屋を出ていく形で、幕を閉じた。
オフィスに戻っても、私には理解できなかった。この十年、私は彼に、会社に、すべてを捧げてきた。いくつもの大きなチャンスを諦めてきた。彼も、私が彼を想う気持ちを知っていて、私の愛を享受してきたはずだ。
それなのに、なぜ突然、こんな仕打ちを?私の十年間の血の滲むような努力と、愛情に満ちた献身は、突然帰ってきた幼馴染一人に、本当に及ばなかったというの?
「結菜さん、この会社にいる誰もが、あなたが彰吾さんを愛していることを知っています。みんな、二人が結ばれることを期待していました。それなのに、彼は初恋の相手を会社に引き入れて、あなたの副社長の席まで奪うなんて。人を馬鹿にするにも程があります。
いっそ、辞職して、私たちを連れて独立してください!」
望月杏奈(もちづき あんな)が私のオフィスのドアを開け、憤懣やるかたないといった様子で言った。
彼女は、私が新卒研修生の頃から育て上げ、七年間も私についてきてくれた部下だ。
今回の裏切りに、彼女は誰よりも憤慨していた。抗議の意思を示すため、彼女はチーム全員を率いて、業務を放棄するストライキにまで出ていた。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)