彼に騙され続けた、聴覚障害のある私第3話
この話は約1310字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
航平に別れのメッセージを送った。
深夜二時、私はまだ荷造りをしていた。
この家は、何年もかけて少しずつ私の手で温もりのある「我が家」に変えてきた。
手放せないものがあまりにも多くなっていた。
小物のひとつを手に取り、持っていくかどうか迷っていると、航平からメッセージが届いた。
どうやら、別れのメッセージにはまだ気づいていないらしい。
【紗耶香、もう家に着いたか?】
【今夜は帰れないから、一人で寝てていいよ。戸締まりだけちゃんとしておいて】
返事はしなかった。
私たちが離れになって、すでに七時間が経っている。
もし本当に私のことを心配してくれているなら、七時間もあれば何か行動するはずだ。
理由はもちろん、わかっている。
二時間前、希美のSNSが更新された。
【私の王子様、永遠に守ってくれるって】
添えられた写真には、二つの手が重なり合っている。
背景には、乱れたホテルのシーツ。
そこで何があったのか、私にはすぐにわかった。
航平に首を絞められたときよりも、もっと息が詰まるような感覚に襲われた。
そんなことをSNSにさらすのは品がない、とずっと思ってきた。
でも希美は、航平が私を捨てて自分を選んだことを、私に見せつけたかったのだ。
航平が私のことを愛しているのかどうか、かつては何度も疑ったことがある。
彼は一度も愛しているとは言わなかったし、私のことだって、ろくに知ろうともしなかった。
ある深夜、私はひどい腹痛に襲われたことがあった。
道には人通りがほとんどなく、タクシーもつかまらないなか、彼は私を背負って十数キロも走ってくれたのだ。
私が目を覚ましたとき、航平はベッドのそばで目を真っ赤にしていた。
私が目を開けると、彼の目から涙がこぼれ落ちた。
「紗耶香、離れないでくれ」
そう言って、私の手をぎゅっと握りしめた。
そばにいた看護師が言った。
「彼は、あなたのことすごく心配して、一晩中泣いてたんですよ」
あの瞬間、私は確信した。この人は私を愛していると。
けれど、彼が食中毒で倒れたとき、私はまた疑い始めた。
そして今、彼は私を愛していないと、はっきりわかってしまった。
希美の狙いどおりだった。
コメント欄には、希美と航平の友人たちが次々と祝福の言葉を並べている。
特に真帆がひどかった。
【本命が戻ってきたんだから、紗耶香もいい加減身を引くべきでしょ】
そう、私はここを去ろうとしている。
だから、その投稿に「いいね」を押し、コメントをした。
二人どもお幸せに、と。
するとすぐに、航平から何通もメッセージが届いた。
一通も読まずにいると、今度はひっきりなしに電話がかかってきた。
マナーモードにしてベッドに置いたから、バッテリーが残りわずかなことにはまったく気づかなかった。
三十分後、荷造りが終わった。
さあ出よう、と思ったそのとき、航平が帰ってきた。
スーツケースを見ると、眉をひそめて言った。
「紗耶香、いつまでそんなつまらないことをする気だ!」
典型的なクズ男のセリフだ。
「あなたとは別れる。あの女のところへ行ってよ!」
私は指輪を外してゴミ箱に放り投げ、スーツケースを引いて玄関へ向かった。
背後で、彼が歯ぎしりするように吐き捨てた。
「紗耶香、俺から離れたら絶対に後悔するぞ!」
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
T96241- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。