彼が振り向いた時、私はもういなかった第1話
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流産した後、私は一ヶ月間ICUで横たわっていた。
一方、私の夫の藤波時也(ふじなみ ときや)は彼の憧れの人と一緒に各地を旅行していた。
離婚を決意した彼が、ようやく私のことを思い出した。
母に電話をかけ、私がいつまで駄々をこねるつもりなのかと詰問してきた。
瀕死の私を見つめながら、母は心底冷え切った声で言った。
「この子はもう二度と、あなたに駄々をこねることはないわ。満足?」
* * *
私、白石雪乃(しらいし ゆきの)はICUに入院していた。
流産したその日、大量出血と臓器損傷で生命の危機に瀕していたのだ。
笑えることに、私を流産させた張本人は、他でもない私の夫、藤波時也(ふじなみ ときや)だった。
事故が起きたのは、彼の誕生日当日のことだった。
私は彼のためにテーブルいっぱいのご馳走を作り、自分の手でケーキを焼き、部屋を極上にロマンティックに飾り付けていた。
様々なブランド品に加えて、時也のために特別で貴重なプレゼントも用意していた――
妊娠したのだ。
五年間妊活してやっと授かった命。本当に大切な宝物だ。
この子の誕生は、私たち二人への贈り物であり、破綻していた二人の関係を修復できるきっかけになると信じていた。
だから彼の誕生日を選んで、この嬉しい知らせを伝えようと思ったのだ。
ところが時也は仕事から帰ってくると、大急ぎで着替えて「柚月さんが病院に行ったから付き添いが必要なんだ」とだけ言って、またすぐに出かけようとした。
私は信じられない思いで彼の腕を掴んだ。
「でも、私こんなに準備したのに……
それに、とても大切なプレゼントがあるの……」
時也は冷たく私の手を振り払った。
「雪乃、柚月さんが一人で病院にいるんだ。俺は行かなきゃいけない!」
私の気持ちも一瞬で冷え切った。
椿柚月(つばき ゆづき)が再び現れてから、時也はまるで魂を抜かれたようになっていた。
かつて愛しても手に入らなかった憧れの人は、時也の心の中で唯一無二の地位を持っている。
私は力なく手を下ろした。
「時也、柚月さんってそんなに大切なの?
私より……大切なの?」
時也はうんざりした顔で私を見た。
「こんな時に駄々をこねるのはやめてくれるか?
柚月さんは昔、俺の命を救ってくれたんだ。今、彼女が困ってるのに手助けして何が悪い?」
私と言い争う時間も惜しいとばかりに、彼は先手を打ってきた。
「俺と柚月さんの間に何もやましい事はない。いつもそうやって疑ってばかりで、こんなんじゃもう結婚生活は続けられないぞ」
彼は私を嫌悪の目で見た。まるで仇を見るかのように。
腹が立って、手を伸ばして引き留めようとした。
すると彼は私を突き飛ばし、振り返りもせずにドアを叩きつけて出て行った。
私は踏ん張りきれず、テーブルの角にぶつかり、そのまま床に激しく叩きつけられた。
自分の体が痙攣するのを感じた。無限の苦痛の中、私は恐ろしい闇に飲み込まれていった。
次に目が覚めた時。
気がつくと、私はベッドの脇に立ち、無表情に横たわる自分自身を見下ろしていた――
人は死にかけた時、執念が魂となって、この世界を傍観するらしい。
全身にチューブを刺された自分を見て、涙も出なかった。
病室の外で一晩で白髪になった母を見た時、胸が引き裂かれるように痛んだ。
これら全てを時也が引き起こしたのだと思うと……
その強烈な無念さが私を導き、時也のそばへと連れて行った。
その時の時也は、別の病院にいた。
彼は柚月の手を握り、心配そうな顔で言っていた。
「安心して、体を休めることだけ考えて。他のことは全部俺に任せて」
柚月は青白い顔で微笑み、弱々しさに甘えて時也の肩に頭を預けた。
「時也さん、あなたがいてくれて本当に良かった。もしあなたがいなかったら、私どうしたらいいか分からなかった……」
柚月が頼ってくれている事を感じ取り、時也は満足そうに笑った。
柚月は時也の傍らに身を寄せ、甘えた声で尋ねた。
「でもあなたがずっとこうやって私に付き添ってくれたら、雪乃さん、嫌な気持ちになるんじゃない?」
「構わないよ」私の名前を聞いた瞬間、時也は一秒で嫌悪の表情に切り替わった。
「しょっちゅう俺に難癖つけて、すぐに俺と柚月さんが怪しいって言いがかりつけて、喧嘩を売ってくる。
こんな生活、誰が続けられる?
最悪、離婚すればいいだけの話さ」
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