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彼からの復讐に耐えた5年目、私は死んだ第1話

この話は約2018字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

北村雅斗(きたむら まさと)と結婚して5年目。

私・北村唯月(きたむら いつき)は自殺した。

もう、あの人の仕打ちには耐えられなくなって、屋上から飛び降りた。

まるではねを失った蝶のように、吸い込まれるように落ちていった。

私の死を知った雅斗は、忘れられない人だった中洲琴美(なかす ことみ)の遺影を抱きしめ、狂ったように笑った。

「やっと、琴美の仇を討てた」

だが、その後――

すべての真実を知った雅斗は、私の墓の前に土下座し、何度も額を地面につけて謝った。

* * *

雅斗と結婚して5年目。

廃ビルの屋上に、風に髪をさらわれながら、私はぼんやりと立ち尽くしている。

ゆっくりと頭を下げ、遥か下にある小さな景色を見つめた。

昔はあれほど高いところが怖かったのに、今は少しも怖くない。それどころか、すべてから解き放たれるような気さえしている。

私は大きく息を吐いた。

5年もの間、雅斗と縛られ続けたこの悪縁も、もう終わりにしよう。

1時間前。私は病室のベッドに横たわり、自分の人生をどう終わらせるか考えていた。

そこへ、能口理名(のぐち りな)がやって来た。

雅斗の部下であり、琴美の面影を誰よりも色濃く宿した女。

理名は妊娠検査の結果を手にして、愛嬌のある顔いっぱいに得意げな笑みを浮かべながら言った。

「私、妊娠したの。だから、唯月さんには雅斗と離婚してもらうわ」

その言葉を聞いた瞬間、鈍っていた頭が一瞬だけ冴えた。右手が思わずお腹へ伸びたが、そこには何もなかった。

実は、この5年の間に、私にも子どもを授かったことがある。

けれど、雅斗は産ませてくれなかった。

妊娠がわかるたびに私を冷たい手術台へと送り込み、温もりのない器具を体に入れさせては、その手で我が子の命を奪っていった。

一度だけ、私はつわりに必死で耐えながら、こっそり産もうとしたことがある。

けれど4か月目には、もうお腹を隠しきれなかった。

雅斗は冷たい目を向けた。

「まだ俺の子を産むつもりか?唯月なんかに、その資格があると思うのか?」

目を細めた。

若い頃と変わらない、整った顔。けれど、その瞳に昔の優しさはもうなかった。

私を懲らしめるため、雅斗は力いっぱい私を突き倒し、お腹を蹴りつけた。

鋭い痛みがお腹から全身へ走り、私は狂ったようにお腹を押さえた。股の間が、じわりと濡れていった。

ワンピースの下から、赤い血が絶え間なく広がった。

私は絶望のあまり泣き崩れた。

「雅斗、これは私の子ども……私たちの子どもよ!なのに、どうしてこんな仕打ちをするの?どうして私をここまで追い詰めるの?」

けれど雅斗は、顔色ひとつ変えなかった。

「これは、お前が琴美に払うべき償いだ」

青ざめた私は、ふっと惨めな笑みを浮かべた。

そうだ。私は琴美に償わなければならない。

私と雅斗と琴美は、高校で有名な三人組だった。

誰もが、私たちの友情を羨ましがっていた。

けれど、誰も知らなかった。私は雅斗をずっと密かに想っていたことを。

そして雅斗が好きだったのは、琴美だった。

この想いは一生、胸の奥にしまっておくつもりだった。

けれど23歳のとき、琴美が死んだ。

海で命を落とし、遺体すら残らなかった。

あの旅行を手配したのは、私だった。

今でも覚えている。目を真っ赤にして、私の首をつかみながら問い詰めてきた雅斗の姿を。

「唯月……どうして死んだのがお前じゃなかったんだ……」

私は、どう弁解すればいいのかわからなかった。

だって琴美は、確かに私のせいでクルーザーの爆発に巻き込まれて死んだのだから。

千人を超す捜索隊が捜しても、見つかったのは服の切れ端と、雅斗が贈った髪飾りだけだった。

琴美は、そうしてこの世界から消えてしまった。

雅斗は私を心底憎んだ。

それでも母親に迫られ、私を妻として家に迎え入れざるを得なかった。

それ以来、雅斗は、私が彼と結婚するためにわざと琴美を殺したのだと思い込んでいた。

そして今日で、私と雅斗が結婚して5年。

琴美が死んで6年。

私が妊娠したと知った雅斗は、またしても私の子どもの命を奪った。

目を開けたとき、私はどれほど泣き崩れていただろう。

その小さな命をどうか残してほしいと、どれだけ必死に頼んでも、雅斗は少しも心を動かされなかった。

最後には、涙さえ枯れ果てたのか、私はぼんやりと窓の外を見つめることしかできなかった。

「唯月、何を悲劇のヒロインぶってるんだ?たかが子どもひとりだ。琴美が死んだとき、どれだけ絶望したか……お前もやっと分かったんだろ!」

私の体は、雅斗に乱暴に床へ突き飛ばされた。

「お前は一生、琴美に詫び続けろ。死ぬまでその罪に苛まれろ!」

そう言い捨てると、雅斗は冷たく私の体をまたいで、そのまま立ち去ろうとした。

「雅斗……」

私は床から這い上がり、ぽつりと呟いた。

「わかった。私の命で琴美に償う」

そして疲れ切った弱い体を引きずりながら、タクシーで郊外にある廃ビルへ向かった。

そこから飛び降りた。

鮮やかな赤い花が、冷たく枯れ果てた大地の上に咲き誇った。

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