幼馴染に騙され転校した俺の逆転劇第1話
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いじめられている幼馴染を守るため、俺・北条奏多(ほうじょう かなた)は一緒に転校すると約束した。
だが、彼女はハンコを押す前日になって、突然約束を破った。
彼女の友人が、面白そうに茶化した。
「やるわねえ、結衣。あんないじめられてるフリを続けてたのは、全部、奏多を追い払うためだったの?
でも、あいつとは幼馴染なんでしょ?知らない学校に一人で放り出して、平気なの?」
長瀬結衣(ながせ ゆい)の声は、驚くほど冷めていた。
「同じ市内の別の高校に移るだけじゃない。大して遠くもないわよ。
毎日毎日付きまとわれて、正直うんざりしてたの。これでやっと清々するわ」
あの日、俺は個室のドアの外でしばらく立ち尽くしていたが、結局、何も言わずに背を向けた。
ただ、提出する転校届の志望校欄を、予定していた「帝都第三高校」から、両親が以前から勧めていた海外の高校へと書き換えただけだ。
みんな忘れているようだが、俺と彼女とでは、もともと住む世界が違いすぎたのだ。
* * *
いじめられている幼馴染を守るため、俺・北条奏多(ほうじょう かなた)は一緒に転校すると約束した。
だが、彼女ははんこを押す前日になって、突然約束を破った。
彼女の友人が、面白そうに茶化した。
「やるわねえ、結衣。あんないじめられてるフリを続けてたのは、全部、奏多を追い払うためだったの?
でも、あいつとは幼馴染なんでしょ?知らない学校に一人で放り出して、平気なの?」
長瀬結衣(ながせ ゆい)の声は、驚くほど冷めていた。
「同じ市内の別の高校に移るだけじゃない。大して遠くもないわよ。
毎日毎日付きまとわれて、正直うんざりしてたの。これでやっと清々するわ」
……
真実を聞いた瞬間、俺の心臓は激しく震えた。
この一ヶ月、結衣が集団で暴行されたり、濡れ衣を着せられたりすることは数え切れなかった。
俺は全力を尽くして彼女を庇ったが、どうしても守りきれない時もあった。
我慢の限界を超え、俺は彼女に転校を勧めた。
あの時、結衣は氷水を浴びせられたばかりで、整った顔は青白く、哀れに見えた。彼女はすがるように俺の手を握りしめ、言ったのだ。
「奏多、知らない環境に一人で行くなんて、怖くてできないよ」
俺と結衣はいわゆる幼馴染だ。幼稚園の頃から一緒に登下校し、十数年もの間、それは変わらなかった。
それに、俺は密かに彼女に想いを寄せていた。
だから俺は頭に血が上り、彼女に約束してしまったのだ。
「怖がるな。お前が行くなら、どこへだってついて行く」
だが今になってようやく分かった。すべては俺を追い払うために、彼女が手間暇かけて演じた芝居だったのだ。
疑問を抱かずにはいられなかった。結衣は、それほどまでに俺が嫌いだったのか?
個室の中では会話が続いていた。
「奏多って、本当にあんたに首ったけよね。
このタイミングで他校に行かせて、他の子を好きになっちゃったらどうするの?」
「あいつが?」
結衣は鼻で笑った。まるでとんでもない冗談を聞いたかのように。
「私のために集団リンチすら止めに入るような男よ。自分がボコボコにされて顔が腫れ上がっても、一歩も引かなかった。そんな奴が心変わりすると思う?」
誰かが小声で呟いた。
「万一ってこともあるじゃない?奏多って、怒らせると怖そうだし」
結衣は気だるげに言った。
「万一なんてないわよ。帝都第一高校に美人は山ほどいるけど、あいつが他の女によそ見したこと、一度だってある?」
その口調には、隠しようのない軽蔑が混じっていた。
「一日中私の後ろをついて回って……飼い犬だって、もう少し距離感があるわよ」
個室に響く甲高い笑い声が、俺の頬を張る平手打ちのように感じられた。
立ち去りたかったが、足が根付いたように動かない。聞きたくないのに、聞かされ、痛めつけられていた。
誰かが感心したように舌打ちした。
「自分を好きな男を自ら追い出すなんて初めて見たわ。さすがね。
それもそうね、付きまとわれるのが嫌なら、直接言えばよかったんじゃない?奏多だって、しつこく食い下がるようなタイプじゃないでしょ」
結衣は「チッ」と舌打ちし、苛立った様子を見せた。
「奏多は目立ちすぎるのよ。はっきり言ったところで、そう簡単に離れてくれるわけないじゃない」
彼女は声のトーンを変えた。
「それに、拓真があいつを見ると、劣等感で落ち込んじゃうのよ。私がそばにいてあげないとダメなの。
拓真のために、こうするしかなかったの。奏多にはしばらく我慢してもらうわ」
その言葉で、全員が察したようだ。
時期を考えれば、結衣がいじめられたフリを始めたのは、星野拓真(ほしの たくま)が帝都第一高校に転校してきてからちょうど一週間後のことだった。
誰かが笑いながら結衣をからかった。
「あんたも隅に置けないわね。あんな子犬系男子が転校してきた途端に目をつけたわけ?
でも、拓真君って本当に儚げで可愛い顔してるし、性格も大人しいもんね。女心をくすぐられるのも無理ないわ。
奏多とは大違いよ。あいつは冷酷だし、いつも無愛想で人を寄せ付けないじゃない?いくら顔が良くても、あれじゃあね」
個室の中で繰り広げられる俺への好き勝手な品評は、潮のように何度も押し寄せてきた。
だが、長年想い続けてきた結衣は、それを止めるでも否定するでもなく、時折相槌を打って同意していた。
ドアの外に立つ俺の心は、重く深淵へと沈んでいった。空虚で、鈍い痛みが走る。
一瞬、ドアを開けて結衣を問い詰めようかと思った。
なぜ騙したのかと。
守るために殴られた俺を見て、少しも罪悪感や情けを感じなかったのかと。
十数年の情を、何だと思っているのかと。
だが結局、母の言葉が耳元で蘇った。
「どうでもいい人に、大事な時間を取らせちゃダメ」
これこそ結衣の本性なんだろう。
俺はきびすを返し、その場を立ち去った。
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