幼なじみを偏愛する夫第3話
この話は約1457字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
翌日、私はスタジオへ移った。
冬真に理由を聞かれたが、最近仕事が忙しく、納期に追われているだけだと答えた。
その頃の私は確かにとても忙しかった。かつての恩師に紹介され、あるコンテストに参加することになった。そして、作品の制作に追われて、昼も夜も分からないほど忙しかった。
冬真とのことにまで、気を回す余裕はなかった。
コンテストが終わったその日、一本の見知らぬ電話がかかってきた。
相手は清美で、カフェで会いたいと言ってきた。
カフェに着くと、私の向かいに座った彼女は、全身から冬真と同じような疎外感と高貴さを漂わせていた。
彼女は微笑みながら、氷のように冷たい言葉を口にした。
「夏井(なつい)さん、分をわきまえているなら、早めに自分が持つべきでないものを手放しなさい。さもないと、奪いに行くよ」
まるで冬真の妻そのものの態度だった。
私は引き下がらず、言い返した。
「私のものじゃないなら、それが必ずあなたのものになるとでも?」
清美はコーヒーを一口飲み、悠然と言った。
「あなたは幼い頃に両親を亡くし、孤児院で育った。10歳のときに引き取られたけれど、義父はギャンブル狂い。
そんな身の上で、三井家に嫁げるなんて、夢でも見てなさい」
私が意識的に忘れようとしていた苦しい過去を、生々しく暴かれ、頭の中が真っ白になった。
「私を調べたの?」
私は興奮のあまり立ち上がった拍子に、袖が当たって目の前のコーヒーをひっくり返してしまった。
清美は余裕の表情で私を見て、数枚のティッシュを差し出した。
その手首が動いた瞬間、彼女の体から「運命の恋」の香りが漂ってきた。
彼女は立ち上がり、ひと言だけ残して去った。
「まだ諦めきれないなら、明日の夜、柳井レストランの301号室に来て。自分の目で確かめなさい」
何日もまともに眠れていない疲れ切った体を引きずって個室の前に立ったとき、私の目に入ったのは、清美がスプーンでスープをすくい、何度も息を吹きかけてから冬真の唇へ運ぶ姿だった。
そして冬真は、何のためらいもなく口を開けて、それを受け入れた。
そばにいた友人の一人が冗談めかして言った。
「冬真の長年の潔癖症も、清美さんにかかればすぐ治るんだな」
その瞬間、記憶が一気に蘇った。
以前、冬真が40度の高熱を出し、真っ青な顔で布団にくるまっていたことがあった。
私はお粥を炊き、食器を持って食べさせようとした。
彼は鼻声で、私の手を避けながら言った。
「自分で食べる」
そのとき私は、彼の育ちの良さゆえ、人に迷惑をかけたくないのだと思っていた。
だが実際は、私を汚いと思っていただけだったのだ。
私はドアを押し開け、招かれていないのは失礼だなどと考える余裕もなかった。
冬真を問い詰めたかった――清美が好きなら、なぜ私と付き合って、希望を持たせたのか。
胸が冷え切り、私は苦笑しながら冬真に尋ねた。
「こんなに長い間、私をもてあそんで、楽しいの?あなたが本気だと信じ込ませて、面白いの?」
清美の鋭い爪が私の腕に食い込み、乱暴に引き離された。
「あなたには冬真を責める資格などないわ!彼が好きなのは私よ。卑しい虫けらみたいなあなたが、私と張り合えると思っているの?」
私はただ一言、反論するのが精一杯だった。
私はただ、「人の恋愛に割り込んでおいて、どの面下げて私より高貴だなんて言えるの」と、一言だけ言い返した。
次の瞬間、頭から熱いスープを浴びせられた。
清美は得意げに笑った。冬真は眉をわずかにひそめて私を見た。
「蛍琉?これで目は覚めたか?」
その瞬間、私は確かに胸の奥で何かが砕ける音を聞こえた。
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