幼なじみのために息子の診断を拒んだ夫が狂った第3話
この話は約2054字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
私は大きな足音を立てて外に飛び出した。
息子は母の肩にうつ伏せになり、その小さな手がだらりと垂れ下がっていた。
慌てて息子の頸動脈に手を当てたが、全く脈が感じられなかった。
心臓が締め付けられるような感覚に襲われ、大脳が一瞬で真っ白になった。
とっさに叫んだ。「早く!彼を地面に平らに寝かせて!」
母は私の指示に従い、息子をそっと地面に寝かせた。
私は地面に膝をつき、息子に心肺蘇生を始めた。
胸部を押しながら必死に息子の命をつなぎとめようとした。
その間、母は振り返り、看護師ステーションの方へ向かって地面に頭をつけながら懇願していた。
「お願いします!どうか助けてください!この子はこんな状態なんです!放っておくつもりですか?」
周りに集まっていた見物人も言葉を失っていた。
一人の看護師が様子を見ようと近づこうとしたが、天野に再び阻まれた。
「通常業務の妨げになるのでお控えください」
誰の助けも借りられなかったが、私の必死の蘇生で数分後に息子の脈が戻った。
息子がゆっくりと目を開け、小さな声で私を呼んだ。「ママ……」
よかった……
私は涙が止まらず、息子をぎゅっと抱きしめた。
しかし、息子があと少しで病院で命を落としかけたことを思い出すと、胸が張り裂けそうなほどの痛みに襲われた。
息子が弱々しい声で私に尋ねた。
「ママ、僕、死んじゃうのかな……?ここ、パパが働いてる病院だよね?どうしてパパ、僕を助けに来ないの……?」
息子の幼い声が場を凍りつかせた。
見物人の中には、そっと涙をぬぐう人もいた。
そのうちの一人が天野に声をかけた。
「河口先生、どう見ても作り物には見えませんよ」
「河口先生、ひとまず診てみませんか?もし本当に作り物だとしても、ここまでリアルに演じられるなんて信じられない」
その場にいた多くの人が私たちをかばうように声を上げ始めた。
しかし、天野は全く動じず冷たく言った。
「汐音、さすがだな。こんな状況を家で何度も練習したんだろう?でもその心肺蘇生のやり方は少し違うな。それに直樹はもう小梅のところに行ってる。この芝居は無駄だったな」
ここまで来ても天野が私の息子の病気を信じないことに、私は怒りを抑えきれなかった。
「天野、私が一体何をしたっていうの?そんなに私を嘲笑うなら、私に法律で罰を与えればいい。でも、私の息子は何をしたの?あなたは医者のくせに、患者を診断もせずに嘘だと決めつけるなんて、本当に医者と言えるの?」
私がそう言い終えると、周囲の人々も怒り始めた。
「河口先生、彼女の言う通りだ。母親が自分の子どもをおもちゃにするとは考えられないと思う」
「私が嘘をついていると言うなら、証拠を見せなさい。診断してみれば本当かどうかわかるでしょ?」
人々の非難を受け、天野の顔色が少し変わった。
彼は渋々聴診器を取り出し、息子の心音を聞こうとした。
その時、天野の携帯が鳴った。
天野は電話に出て言った。
「直樹、今どこにいるんだ?お義姉さんが科で騒いでるんだよ」
その「お義姉さん」という言葉に、私は凍りついた。
電話の相手が直樹だと気づいた瞬間、体が震えた。
直樹の声は冷たかった。
「俺は小梅のところだ。彼女が入院したんだ。まずあいつらを追い出せ。小梅が落ち着いたら、戻って片付ける」
そして、直樹はさらにこう付け加えた。
「それから、あのベッドは誰にも使わせるな。小梅のために取っておけ」
その言葉を聞いた母が電話越しに泣き叫んだ。
「直樹!あんた、頭おかしくなったの?病気なのはあんたの息子だよ!ここで死んだらどうするの?少しも悲しくないの?」
直樹は冷たく笑った。
「小梅より大事な人なんていない。あいつが死ぬなら、それで構わない」
私は息子の耳を慌てて塞いだが、間に合わなかった。
息子は私を見上げて言った。
「ママ、どうしてパパは僕に死ねって言うの……?」
私は何も言えなかった。
どう説明すればいいのか分からなかった。
直樹は電話を切り、天野は私を見下ろして言った。
「聞いたよな?さっさと子どもを連れて帰れよ。ここでみっともない真似をするな」
その時、ベッドナースが渡辺主任を連れて入口に現れたのが目に入った。
私は目の前が明るくなったように感じ、息子を抱きしめながら駆け寄った。
「渡辺主任、お願いです。息子を診てください!河口先生は息子を受け入れず、病気じゃないって言うんです。でも、息子は大動脈解離の破裂だと思います!」
私が頭を下げて必死に頼むと、渡辺主任は息子の胸に聴診器を当てた。
彼は心音を聞きながら眉をひそめた。
天野が近づいてきて言った。
「先生、彼女の言うことを真に受けないでください。子どもが大動脈解離を患うなんて、あり得ないですよ」
しかし、天野の言葉が終わる前に、渡辺主任は聴診器をしまい、息子を抱きかかえて手術室へ向かった。
そしてベッドナースに言った。
「手術室に連絡を!大動脈解離の子どもがいる!」
その後、渡辺主任は冷たい目で天野を一瞥し、言った。
「誰が子どもはこの病気にかからないと言ったんだ?天野、この子の命を危険にさらしたのはお前だ!」
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