幼なじみでいるのをやめたら、彼は死ぬほど後悔した第1話
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私、糸賀一花(いとが いちか)と静間理玖(しずま りく)は、物心ついた頃からずっと一緒に育った。
両家の親も、大学を卒業したら私たちは自然に付き合うものだと思っていた。
理玖も人前でためらうことなく、いつもこう言っていた。
「一花は怖がりだから、俺がいないとダメなんだよ」
私は、その言葉を十年以上ずっと信じていた。
大学に入って最初の学科の食事会。
同じ学科で美人だと評判の久留宮茉白(くるみや ましろ)が、飲み物を手に理玖の隣へ座り、笑いながら聞いた。
「幼なじみがいるって聞いたけど、恋人なの?」
周りに冷やかされ、私は頬が熱くなるのを感じながら、理玖がうなずくのを待った。
けれど、理玖は一瞬だけ間を置いた。
「違うよ。小さい頃から近所に住んでて、妹みたいなもんだ」
誰かが茉白を肘でつついた。
「ってことは、まだチャンスあるじゃん」
茉白は目を細めて笑った。
「じゃあ、これからよろしくね」
理玖は避ける様子もなく、笑って答えた。
「うん」
その瞬間、高校の体育祭の練習で日焼けしないようにと、理玖が夜遅くまで開いている店を探して日焼け止めを買ってきてくれたことを思い出した。
進路を決めたときには、私の手を握って「大学に行っても、ずっと一緒だから」と言ってくれたことも。
それでも、茉白が笑えば、私との十数年は「妹みたいなもの」のひと言で片づいてしまうらしい。
帰り道、追いかけてきた理玖は言い訳した。
「茉白って、思ったことをそのまま口にするタイプだろ。あそこで否定して、恥をかかせたくなかっただけ」
「じゃあ、私が恥をかくのはいいの?」
理玖は眉をひそめた。
「一花、いつからそんなこと気にするようになったんだよ」
私は、それ以上何も言わなかった。
その夜、SNSに載せていた理玖との写真を、すべて非公開にした。
その日から、私もただの近所の人になることにした。
* * *
「一花、SNSの投稿、俺だけ見られないようにした?」
学生寮の前に立っていた理玖は、片手にホットミルクを持っていた。
「うん」
「なんで?」
「そうしたかったから」
理玖がホットミルクを差し出してくる。
「まだ怒ってんの?朝飯抜くと、また胃が痛くなるだろ」
私は受け取らなかった。
「なんで朝ごはん食べてないって知ってるの?」
理玖が一瞬、言葉に詰まる。
「同室の子に聞いた」
私は差し出されたホットミルクを見て、ふっと笑った。
「じゃあ聞かなかった?私、牛乳飲むとお腹壊すんだけど」
理玖は少し間を置いた。
「でも、温かいやつだし。これなら平気だろ」
「茉白は牛乳、飲めるの?」
理玖が顔を上げる。
「一花、なんでも茉白に結びつけるのやめろよ」
「聞いただけ」
「今朝、茉白が低血糖だっていうから、ついでに朝飯を買ってやっただけ。このホットミルクは、お前のために特別に買ったんだよ」
「砂糖、入ってる?」
「ああ」
「私、甘いホットミルク飲まないよ」
理玖は少し黙った。
「一花、いちいちケチつけるなよ」
私は両手をポケットに入れた。
「持って帰って」
理玖が眉をひそめる。
「昨日の飲み会で言ったこと、あれはそういう意味じゃないからな」
「どういう意味?」
「お前のこと、昔からの幼なじみで、妹みたいなもんだって言ったのは、みんなに冷やかされたくなかったから。俺たちのこと、わざわざ大っぴらにする必要ないだろ」
「じゃあ、茉白に『恋人なの?』って聞かれて『違う』って答えたのも、大っぴらにしたくなかったから?」
理玖は眉間を揉んだ。
「俺たちがどういう関係か、一花だって分かってるだろ。言い方ひとつでいちいち突っかかるなよ」
私は黙って理玖を見つめた。
初めて思った。
理玖って、本当に自分に都合よく解釈するんだ。
「理玖!」
後ろから声が飛んできた。
教材を抱えた茉白が、小走りでこちらへやってくる。
私に気づいた途端、顔に浮かんでいた笑みが少しずつ消えた。
「もしかして、邪魔しちゃった?」
「いや」
理玖はいつもと変わらない顔で答えた。
茉白は私に目を向ける。
「2人、ケンカしてるの?昨日のことだったら……一花ちゃん、勘違いしないでね。私、本当に2人がそんなに仲いいって知らなくて」
そんなに仲がいい。
茉白から見れば、私と理玖はただ仲がいいだけらしい。
私はホットミルクをゴミ箱のふたの上に置いた。
「別に、勘違いしてないよ」
理玖はすぐにカップを手に取った。
「一花。朝からわざわざ持ってきたのに、そんな扱いする?」
「飲めないから」
「あ……もしかして、私のせい?」
茉白が慌てて口を挟んだ。
「じゃあ、別の飲み物買ってこようか?」
「茉白は関係ない」
理玖の声に、わずかな苛立ちが混じった。
「一花は昔からこうなんだ。ちょっとなだめれば、すぐ機嫌直すから」
目の奥が熱くなった。
私は理玖を見た。
「理玖、私、もう子どもじゃないよ」
理玖が一瞬、黙る。
「分かってる」
「だったら、もう機嫌なんて取ってくれなくていい」
カップを持つ理玖の指に力が入った。
「分かった。じゃあ、少し一人で頭冷やせよ」
茉白が小さな声で言った。
「一花ちゃん、そんなに理玖に怒らないであげて。昨日も、一花ちゃんって昔から怖がりで、1人じゃ夜道も歩けないって。そこが変わらなくて笑えるって言ってたよ」
「茉白」
理玖が低い声で遮った。
暗い道が怖いことまで、理玖にとっては人に笑って話せることだったんだ。
1限の開始時刻が迫っていた。
理玖はバッグを反対の肩に掛け直す。
「行くぞ。遅れる」
「2人で先に行って」
私はそう答えた。
「パン、買ってくる」
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