年越しの夜、ネット恋愛相手との初対面は罠でした第3話
この話は約2534字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
……なんだ、間違ってなかったんだ。
私は安心して胸をなでおろしながら、目の前の彼とベッドに座るもう一人の男を交互に見た。「でも、二人とも顔だけじゃなくて声までそっくりすぎない?」
すると、ベッドにいた彼が立ち上がり、手を差し出してきた。
「初めまして、リノさん。僕は風見レイ(かざみれい)」
名前を名乗ったあと、意味深な笑みを浮かべながら私とシオンをじっくり見比べる。
「僕たち、双子なんだ。さっきはちょっとした冗談だった、ごめんよ」
なるほど、二人は双子の兄弟で、しかも生まれた時間差はたったの30秒。性格には多少の違いがあるみたいだけど、見た目に関してはほとんど区別がつかない。顔にあるホクロの位置まで同じなんて、見分けるのは至難の業だ。
一瞬、頭をよぎったのは――もし彼らが名乗らなければ、果たして誰がどちらなのか分かっただろうか?それどころか、本当に間違えて夜を過ごしたとしても、きっと気付かないままだったのかもしれない。
「リノ、許可なく弟を連れてきちゃったけど、怒ってない?」
シオンが私の頬を軽くつまむ。その指先には不思議な魔力があるのか、さっきまでの気まずさが一瞬で和らぐのを感じた。
本当は二人きりの時間を期待していたけど、レイがシオンと同じくらい格好良いから、まぁいいか、と簡単に流すことにした。
「全然大丈夫だよ」
そう答えた私のお腹がタイミング良く鳴り、空腹を訴える。ちょうどいいきっかけだと思い、三人で食事に行こうと提案した。
「近くに美味しいお鍋の店があるみたい。そこでご飯を食べてからホテルで少し休憩しない?」
そう話しながら次の予定を頭の中で描いていると、不意にレイが私をじっと見つめながら言った。
「A市の天空の城で、今夜カウントダウンイベントがあるって聞いたんだ。食事の後に行ってみない?リノさんも好きそうな場所だろう?」
天空の城――年越しイベントでは定番中の定番だ。特にカップルには最高のデートスポットとして知られている。ロマンチックで特別な空間、私とシオンにとってまさにぴったりの場所。実は、私も事前に行きたいと話したことがあった。
でも、レイがいる今の状況で行くのは気が進まない。
そう思って提案を後回しにしようとしたが、シオンはどうやらその場所のことを全く知らない様子で、困惑した表情を浮かべていた。
少し引っかかるものを感じたけど、すぐに頭の片隅に追いやる。
それもこれも、シオンの手が私の腰にそっと触れているせいだ。気持ちを掻き乱されるような彼の動きに、正直、私も悪くない気分だった。
でも、さすがにまずはこの「邪魔な弟」をどうにかしてからじゃないと――そう思いながら、シオンと目配せで合図を送ろうとした瞬間だった。
レイの鋭い視線が私たちを捉え、一瞬も瞬きをせずにこちらを見ているのに気付く。何とも言えない圧迫感に、場の空気が一気に張り詰めた。
彼の黒い瞳の奥で、まるで獲物を狙うような光が一瞬きらめく。その視線に圧倒され、私は心臓がぎゅっと縮こまるような感覚を覚え、思わず一歩後ずさりしてしまった。
A市最大の遊園地「天空の城」は、その名に恥じないスケールを誇っていた。敷地内に足を踏み入れると、人、人、人の大波。まさに人山人海という表現がぴったりだ。それでも、広大な敷地のおかげで混雑が苦になることはなかった。
夜のイベントが目白押しで、園内には若者たちの楽しげな叫び声が響いている。そんな中、私たち三人が選んだのは比較的静かなアトラクション、巨大な「お化け屋敷」だった。
このお化け屋敷は一度に30人ほどが入る形式で、さっそく中へ足を踏み入れると、薄暗い通路の先から長髪の幽霊が不意に現れた。
「きゃぁぁっ!」
思わず大声で叫ぶ私を見て、シオンとレイが左右から一瞬で私を囲む。
「大丈夫、怖がらなくていい」
シオンが優しく声をかけ、レイも同じように守る体勢を取る。
二人とも身長180センチを超える堂々たる体格。その二人に挟まれると、なんとも言えない安心感に包まれた。
周りの女性たちからの視線が熱いのを感じる。どうやら羨望の的になっているらしい。
「見て、二人ともイケメンすぎる!」
「しかも双子で、どっちも一人の女の子を守ってる!」
「羨ましい……私なら二人とも選ぶね、絶対!」
「何それ、欲張りすぎでしょ!」
微かに聞こえる女子たちの声が耳に入るたび、思わず笑いが込み上げてくる。
落ち着きを取り戻した私は、左に立つ人と右にいる人の顔を交互に見て、試しに呼びかけてみた。
「……シオン?」
右側の人が振り向くと思いきや、先に反応したのは左の人だった。
「どうした?」
けれど、その瞬間、彼は気まずそうに顔を硬直させ、隣を軽く顎で指した。
「呼ばれてるのはお前だよ、兄さん」
その後、二人はようやく位置を調整したけれど、まさにその瞬間、前方から人々の悲鳴とともに押し寄せる大混乱の波。私たちはあっという間にバラバラになってしまった。
再びシオンたちを探そうとした矢先、目の前に血まみれの首なし幽霊が現れ、私に向かってまっすぐ突進してくる。
「うわぁ!」
恐怖で固まった私の腕を、誰かが素早く掴んだ。
「リノ、走れ!」
その声を信じ、私は全力でついていく。走ること数分、ようやく人混みから抜け出し、シオンに連れられて角の目立たない小さな建物に身を隠した。
息を整えながら、ふと気づく。レイの姿がない。
「ねえ、レイは?」
「放っておけばいいよ。男なんだし迷子になるわけない」
シオンはそう言いながら、少し俯き加減になって私の肩に頭を乗せてきた。
「やっと二人きりになれたね」
甘えた口調に思わず笑いがこみ上げる。私は軽く彼の胸を小突きながら言った。
「なんで弟なんて連れてきたの?もし二人きりだったら、今頃ホテルでゆっくりできたのに……」
正直すぎる私の言葉に、シオンは苦笑を浮かべる。それから、少しだけ視線を落として何か考え込むような表情を見せた後、不意に私をぐっと抱き寄せた。
「ほんとだよな。あいつのせいで、せっかくの二人の時間を台無しにされた」
彼の声は甘く、しかしどこか低い響きを持っている。
「でも、もう邪魔はいない」
耳元でそう囁きながら、彼の瞳には意味深な光が宿っていた。
「ホテルでできなかったこと、今ここで……」
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