年下彼氏に、5年も恋愛練習相手にされていた第2話
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梓の両親は、自分の娘が素直に承諾したことに驚いた。
「本当なのね?それなら、いつ帰ってくるの?式はこっちで用意する?それともあなたが一度戻ってきて、お相手と相談した方がいい?」
もう考える気力も残っていなかった梓は、適当に答える。
「お母さんたちに任せる。こっちのことを片付けたらすぐに帰るから」
梓の両親は娘の疲弊を察し、必ず帰ってくるようにと釘を刺してから、電話を切った。
部屋の中に再び静寂が訪れる。
梓は身体を起こし、バスルームへと向かった。
シャワーを浴びてリビングに戻ると、ソファに座る智哉と目が合った。
「なんで何も言わずに帰ってきちゃったの?」
胸が苦しくなった梓は、視線を落とし、赤くなった目を隠す。「携帯の充電が切れちゃったから、帰ってきただけ」
適当な言い訳だったが、智哉は疑う様子もない。
彼はそのまま手を伸ばして梓を引き寄せると、さっとバスローブの紐をほどいた。
そうはさせまいと思った梓は、伸びてきた智哉の手を掴んだ。
「食事会の場所で、もうしたでしょ?まだ数時間しか経ってないんだけど?」
だが、智哉は彼女の拒絶に気づいていないらしく、梓の手を掴み返して指を絡める。
「何時間も、だよ?梓さんの顔を見ると、抑えが利かなくて。だって、俺、梓さんのこと大好きだから」
計算された甘い言葉を聞いても、梓は皮肉としか思わなかった。
大好きだって?本命のために練習してるんでしょ?
もうこの5年間、数えきれないほど体を重ねてきた。それでも、まだ足りないというのか?
キスをされそうになった梓は智哉から顔をそらし、淡々と言った。「そう?じゃあ、もしもう二度と私に触れられなくなったとしても、私のことを好きでいてくれるの?」
ようやく違和感を覚えた智哉が、不思議そうに問い返す。「梓さんは俺のことが好きだし、俺だって梓さんのことが好き。お互い想い合ってるんだから、触れられないなんてことないでしょ?」
お互い想い合ってる?笑わせないでほしい。
梓は何も答えず、口元をふっと歪めて話題を変えた。
「冗談。帰りに雨に降られて少し具合が悪いから、先に休ませて」
顔色が悪い梓を見て、智哉もそれ以上は強要しなかった。
梓の額に軽く口づけを落とすと、抱きかかえて寝室へ運ぼうとする。
だがその時、テーブルの上にあった智哉の携帯が鳴った。
梓の視界に「芽衣」という文字が入る。
【智哉先輩、帰ってきました!でも外がすごい雨で、タクシーが捕まらないんです。私、どうすれば……】
メッセージを読んだ智哉は、梓をソファに置くと、そのまま立ち上がった。
「梓さん、少し用事ができちゃった。俺のこと待たなくていいから、先に寝てて」
そう言い終わるや否か、智哉は足早に玄関を出て行った。
梓の瞳が静かに揺らぐ。彼女は静かに寝室へと戻った。
髪を乾かし、布団に潜り込んで電気を消す。
しかし、目をつぶっても眠れず、頭の中では智哉と共に過ごした数年間の光景が次々と流れていた。
オークションで落とした億単位のネックレスを梓にプレゼントし、これからは一生ダイヤモンドを贈ると言ってくれた智哉。
誕生日に、砂浜で三日三晩花火を打ち上げてくれ、「梓さんに俺の全てを捧げるよ」と笑っていたこと。
流れ星が降る夜には、永遠にそばにいると約束してくれた……
あの日の誓いの言葉は、今も耳の奥に残っている。けれど今になって、ようやく気づいた。あれはすべて、ただ自分を繋ぎ止めるための口先だけの言葉だったのだと。
智哉には最初から、自分と添い遂げるつもりなんてなかったのだ。
浅い眠りのなかで、彼女の体温は上がっていった。
それなのに体の芯に寒気を感じ、震えが止まらない。
朝になった頃には、汗でシーツがかなり濡れていた。
戻ってきた智哉は、高熱にうなされる梓の真っ赤な顔を見て、一気に目が覚めたようだった。
パニックのまま、彼女を抱き上げて病院へと急ぐ。
病院のロビーに着くと、朦朧とした意識の梓が目を覚ました。「ここ、どこ……?」
「熱があるんだよ。だから、病院に連れてきたの。もう!大人なのに、なんで自分の体調も管理できないんだよ!」
心配で苛立っていた智哉は、梓を椅子に座らせて受付に走ろうとした。
しかし、智哉が数歩進んだところで、彼の視界に桜井芽衣(さくらい めい)が映る。
智哉は驚いた。「芽衣?なんでここに?さっき家まで送っただろ?」
白いワンピースを着た、純粋そうで儚げな女の子。
「揚げ物をしてたら、火傷しちゃって……病院に手当てしてもらいに来たの」
赤くなった芽衣の手の甲を見ると、智哉の表情が一気に変わった。
彼は梓のことなど忘れ、すぐさま芽衣を連れて診察や処置へと走り回り、つい今しがたまで梓の心配をしていたことなど、まるで嘘のようだった。
二人の遠ざかる背中を見つめ、梓はふっと自嘲の笑みを漏らすと、重い体を持ち上げ、自ら受付に並ぶ。
医師の診察後、彼女は点滴を受けることになった。
点滴には3時間かかるというのだが、梓は疲労のあまりそのまま眠ってしまった。
誰も気づかないうちに、針から血液が逆流し、点滴パックが赤く染まっていく。
「必ず誰かに付き添ってもらってくださいって言われませんでしたか?ご家族の方やパートナーは?」
紫に変色した自分の手の甲を見ながら、梓はぼそっと答える。「家族は別の場所にいて……彼氏……彼氏はいません」
ちょうどその時、智哉が駆け込んできた。
「梓!」
点滴パックを交換していた看護師が、智哉を見て言った。「パートナーの方ですか?どうして付き添ってあげないんですか?逆流して危険だったんですよ」
浮腫んだ彼女の手を見て、智哉はさっとその手を掴む。「ごめん、梓さん。友達に偶然会って話をしていたら時間を忘れちゃって。でも、戻った時には梓さんがいなくて……ずっと探してたんだよ」
梓は彼の嘘を追及することもなく、ただ黙ってうなずいただけだった。
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