平野の果てに青き山第3話
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翌日、清花は約束どおりウェディングドレスの店へと向かった。
貴賓室では、万莉が舟也の肩にもたれ、ドレスのカタログを一枚めくるごとに笑いながら「これ、きれい?」と尋ねている。
舟也も嫌な顔ひとつせずにうなずき、その眼差しには、溺れるほど深い優しさが浮かんでいた。
その光景を目にして、清花の胸の奥は締めつけられるように痛んだ。
ふと10年前のことがよみがえた。舟也と結婚したあの頃――
二人にはお金もなければ、頼れる家族もいなかった。唯一の大きな出費は、中古サイトで買った、何度も人の手に渡ったウェディングドレスだった。
裾が長すぎて、清花は役所で八度もつまずいて転び、九度目には舟也が彼女を背に負いながら誓ったのだ。
――「いつか必ず金持ちになって、清花を世界一美しい花嫁にしてみせる」と。
そして彼は、その誓いを果たした。
今の舟也は莫大な資産を手にし、街で最も高価なウェディングドレスの店をいとも簡単に貸し切れる。
けれど、彼の花嫁は清花ではなく、園田万莉――健康で、明るく、一目で大切に育てられてきたとわかる女の子だった。
目頭が熱くなり、清花は二人を直視できず、逃げるかのように試着室へと入った。
最初に着せられたのは重厚感のある仕立てのドレスだった。
彼女がランウェイに姿を現した瞬間、舟也の眉がわずかにひそめられる。
「お前、わざとだろう?今日ドレスを試着するってわかってて、こんなに痩せこけて……同情でも買うつもりか?笑わせるな」
そう言うと、彼は万莉を抱き寄せ、その額に甘やかな口づけを落とした。
「俺が愛せるのは、万莉みたいに優しく誠実な女だけだ。お前なんか、裸で目の前に立ったところで汚らわしいだけなんだ」
男の目に宿っていたのは、紛れもない軽蔑だった。
清花はそれを悟り、いたたまれずに視線を落とした。
彼女は忘れていた。長年の治療で、すでに自分の体は骨と皮ばかりになっていたことを。
今こうして華やかなドレスに身を包んでも、美しい花嫁どころか、他人の服を盗んでまとった泥棒にしか見えない。
清花は自嘲気味に微笑み、せめて体面だけでも取り繕おうと口を開こうとした。
だが次の瞬間、鼻先が熱くなり、真っ赤な血がドレスに滴り落ちた。
呆然とし、慌てて拭おうとしたその手首が、舟也に強く掴まれた。
彼がランウェイに駆け上がってきたのだ。
「お前、どうしたんだ?」
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