平野の果てに青き山第2話
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法廷を出ると、清花は質屋へ行き、10年前舟也がくれた結婚指輪を売り払った。
金を手にすると、そのまま葬儀場へ向かい、7日後に行うもっとも簡素な葬式を予約した。
スタッフは何度も確認した。
「葬式の予約にはご家族の連絡先が必要です。そちらは……」
申込用紙の家族欄が空いているのを見て、スタッフは言葉を切った。
清花は首を振った。
「家族はもういません」
スタッフはそれ以上は何も言わず、同情めいた顔で別の料金表を差し出した。
「お墓の手配はどうなさいますか?こちらでお買いしますか?」
清花がちらりと目をやると、一番安いものでも17万円だった。
唇を引き締めて断ろうとしたそのとき、舟也から電話がかかってきて、まくしたてるように非難された。
「お前、金に困って頭がおかしくなったのか?俺がやった結婚指輪を売るとはどういうつもりだ?あれは俺が工事現場で半月まで働いて……」
「知ってるの」
清花は彼の言葉を遮り、わずかに震える声で答えた。
もちろん彼女は知っているのだ。
あの年、舟也は23歳で、月給は12万円だった。
プロポーズのための指輪を買うため、彼女に内緒で、工事現場で丸15日働いた。
肩は擦りむけ、指は切り傷だらけになっても、気にしなかった。
ただ必死で、清花に一番良いものを渡したかったのだ。
離婚して以来の5年間、病を治すために清花は多くのものを売った。
だがこの結婚指輪だけは、生活がどれだけ苦しても、傷がどれだけ疼いても、どうしても売ることができなかった。
それを今、24,000で売ったのだ。
二人の結婚は、質屋では24,000にしかならなかった。
舟也はしばらく沈黙した。清花の答えに驚いたようだった。
やがて彼はゆっくりと、嗤うように言った。
「お前みたいな冷たい女はさっさと死ねばいい」
インクで黒く汚れた指先を見つめながら、彼女は彼に告げたかった。
――もう憎まないで。私、本当にもうすぐ死ぬんだから。
だが口から出たのは別の言葉だった。
「こんなにお金持ちなんだから、60万くらい貸してくれない?」
彼女の目に映ったのは、両親の墓の隣にある、ちょうど60万円の墓だけだった。
電話は唐突に切られ、向こうはもう一言も話すつもりがないようだった。
その直後、口座に60万円の振込が表示された。通知音が鳴った瞬間、清花は情けなく目を赤くした。
彼女は思った――舟也って、やっぱりまだこんなに騙されやすいんだな、と。
鼻をすすると、清花が「ありがとう」を打とうとしたそのとき、ラインに長いボイスメッセージが届いた。再生すると万莉のからかうような声が流れた。
「神野さん、60万なんて大した額じゃないわ。舟也が何気なく私に買ってくれたヘアピンの一つだって、それくらいするのよ。
お金が必要なら私があげる。明日、舟也が私のウエディングドレスの試着に付き合うの。
あなた、モデルとして来て。上手くやれば、この60万は私が情けで前払いする給料ってことにしてあげる。
どう言っても、あなたに感謝しないとね。あなたが舟也を捨ててくれたから、私は彼に出会えたんだから」
万莉の言葉は一言一句が刃のように清花の心に深く突き刺さった。
彼女は携帯を強く握り、反射的に断ろうとしたが、無意識に墓の料金表に視線が吸い寄せられた。
死んだ後、両親のそばに葬られる――それだけは、清花は拒むことができなかった。
深く息を吸い、清花は返信した。
【わかった】
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