希望を胸に、過去にはもう戻らない第3話
この話は約1939字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
瑠奈はしどろもどろになるばかりで、まともな言い訳ひとつ口にできなかった。
助けを求めるように、ただ瑠奈の母へ視線を向けるしかなかった。
すると瑠奈の母はすぐに一歩前へ出てきて、私の腕をつかもうと手を伸ばしたけれど、私はさりげなく身を引いてそれを避けた。
彼女の手は空中で気まずそうに一瞬止まり、それからたしなめるような口調で言った。
「もう、凛花ったら!
あのときあなたはあまりにも慌てて出ていったでしょう。あのお金なら、ずっと預かっておいたのよ。ただ渡す機会がなかっただけ。ほら、こんなことになっちゃって、全部誤解よ、誤解!」
瑠奈の父も横で手をこすり合わせながら、何度も頷いて同調した。
「そうだそうだ、ちゃんと覚えてたとも!」
こんな穴だらけの言い訳、白々しいにもほどがあった。
祐真の顔は完全に冷えきり、どんよりと沈んだ目で瑠奈をじっと睨みつけた。
「60億だ。一円たりとも欠けることなく、明日の正午までに凛花の口座へ振り込め。さもなければ、お前はもう俺の妻ではいられない」
瑠奈は、祐真がここまで容赦ないとは思っていなかったのだろう。
しかも、これだけ大勢の前でここまで追い詰められるなんて。
彼女は私を毒々しい目でひと睨みしたあと、どうにか笑みを作って応じた。
「祐真、私の手落ちだったわ。安心して、明日には必ず片づけるから」
私はため息をついた。もう本当に、彼らの世界にはこれ以上巻き込まれたくなかった。
今の私が望むのは、和希と穏やかに暮らしていくことだけだ。
「お金は結構です。今の私なら、自分で生きていけます。まだ向こうに仕事が残っているので、失礼します」
そう言って、私は誰の反応も見ず、そのまままっすぐ隅のほうへ戻っていった。
宴会場には再びざわめきが戻り、私もまた黙々と仕事を続けた。雑巾とバケツを手に、仕上げるべき個室はあとひとつ。それが終われば、和希を連れて帰れる。
そのとき、不意に遠くから騒がしい声が上がった。
続いて、瑠奈の悲鳴が響く。
「そんなはずない!さっきまでちゃんと手首につけてたのよ!あのダイヤのブレスレット、10億もするのに!どうしてなくなってるのよ!」
胸の奥が、理由もなくすっと冷えた。
嫌な予感が押し寄せてくる。
次の瞬間、瑠奈がなおも言い募る声が聞こえた。
「さっき……さっき私にいちばん近かったのって、凛花さんだった気がするの。外から一緒に入ってくる前までは、確かに手首についてたのよ。もしかして……」
瑠奈が言い終わる前に、ボディガードが乱暴に私の個室の扉を開け、私を取り押さえて外へ引きずり出した。
「私はやってない!
ずっと仕事をしてただけよ。自分のものじゃない物には何ひとつ触ってない!
何するの、放して!」
私は激しく抵抗した。
けれど力の差は歴然で、なすすべもなく引きずられていくしかなかった。
瑠奈は早足でこちらへ寄ってきて、わざとらしく謝る。
「凛花さん、ごめんなさい、ごめんなさい!でも、あのブレスレットは本当に高価なの。なくしたなんて済まされないのよ。ただ確認したいだけ。あなたが持っていないって分かれば、すぐにこの人たちを下がらせるわ。ちゃんと謝るから!」
そう言いながら、瑠奈の動きにはまるで迷いがなかった。まっすぐ私の右のポケットへ手を入れる。
その場にいた全員が見守る中で、ブレスレットが取り出された!
宴会場は一瞬でどよめきに包まれ、軽蔑と嫌悪の視線が四方から私へ突き刺さった。
瑠奈は信じられないものでも見たかのような顔を作り、
よろけるように一歩後ずさって、ダイヤのブレスレットを手にしたまま、胸を痛めるような目で私を見つめた。
「凛花さん、どうしてこんなことを……お金が必要なら、私に言ってくれればよかったのに。どうして……どうして盗んだりしたの?」
そのとき、警察と会場の警備員が駆けつけてきた。
動かぬ証拠があり、大勢の目がそれを見ていた。
私は恐怖にかられて周囲を見回し、青ざめたまま必死に弁明した。
「違う!本当に私じゃない、このブレスレットがどうして私のポケットに入ってたのか、私にも分からないの!」
そう言いながら、私はただすがるように祐真の袖をつかんだ。
きっと、あまりにも心細かったのだ。
怖くてたまらなくて、彼に助けを求めるしかなかった。
「祐真、私たち、少なくとも幼いころから一緒に育ってきたでしょう。あなたなら私のこと、分かってるはずよ!
私は本当に、物を盗むような人間じゃない!祐真、お願い、助けて!
私はやってない!罠にはめられたの!」
涙が大粒になって、ぽろぽろとこぼれ落ちた。
祐真は、泣き腫らした私の目を見つめ、複雑な色をその瞳に宿した。
手を上げて、目尻からあふれた涙を拭い、そして冷ややかに言った。
「凛花、分かっているだろう。俺が信じるのは、証拠だけだ」
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