届かぬ未来への招待状第2話
この話は約1480字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
千遥は夢を見た。初めて研司に出会ったときの夢だった。
その頃の彼女は遊び好きで、大人たちのパーティーの最中にこっそり別荘を抜け出した。
そして日が暮れる頃には、千遥は道路脇に置き去りにされていた。
彼女は大人たちの名前を呼んで助けを求めたが、誰も応えなかった。
見知らぬ交差点を見渡し、千遥は途方に暮れて地面にしゃがみ込み、声をあげて泣いた。
その時、少年の声が突然、千遥の頭上から聞こえてきた。
「おい、泣き虫、泣くなよ。お前、家まで送ってやるよ」
彼女は涙をぬぐい、笑顔で研司の手を握ろうとした。
しかし、その手に触れた瞬間、研司の顔つきが変わり、千遥の手を激しく振りほどいた。
研司に何度も見捨てられた光景が、一気に千遥の脳裏に押し寄せた。
最初の時――清花が火のついたタバコを千遥の胸元に押しつけ、「死ね!」と激しく叫んだ。
だが、研司は清花を『かわいそうに』とばかりに抱きしめた。千遥にこう言った。「清花は傷つけるつもりなんてない、ただ病気なんだ」
二度目の時――清花が千遥が小さな頃から飼っていた愛犬をベランダから突き落とし、その場で死なせた。
清花は首の筋を浮かべて叫んだ。「また兄ちゃんがお前に笑いかけるのを見たら、今度は犬だけじゃ済まないからな!」
ところが研司が帰宅して最初に口にしたのは……「清花、犬に噛まれなかったか?」だった。
三度目の時――清花が千遥の車のエンジンを破壊し、千遥は急ブレーキをかけたが、軽い脳しんとうと診断された。
病院に駆けつけた研司は、清花を安堵したような目で見つめ、呟いた。「怪我したのが君じゃなくて……本当に良かった」
ここまで思い出した時、千遥はハッと夢から覚めた。背中は冷や汗でびっしょりだった。
階下に降りると、悪魔のような女が彼女に向かって挑発的な笑みを浮かべていた。
しかし研司が振り返った瞬間、その女はあっさりと挑発の表情を消し、おとなしいふりをした。
「ごめんなさい、硫酸をかけようとしたのは私が悪かったわ」
清花の謝罪を聞いて、千遥は一瞬、耳を疑った。
清花がこれほど彼女を傷つけてきて、謝ったのはこれが初めてだった。
驚いていると、彼女はふと、研司の首筋にあるキスマークに気づいた。
千遥は後になってようやくすべてを理解した。清花のこの謝罪は、研司がそういう代償で買ったものだったのだ。
よくもまあ……そこまでするものだな。
それを聞いた研司は、眉間のしわを伸ばした。
「千遥、清花のことは気にするなよ。清花がいくら子供っぽいわがままを言っても、お前が俺の彼女って事実は変わらないんだから」
千遥は自嘲的に口元をゆがめ、低く呟いた……「もうすぐ違うわよ」
その時、清花が研司の手を引っ張りながら甘えた……「お兄ちゃん、約束でしょ?私が謝ったらレースに連れて行ってくれるって」
「ああ~お兄ちゃんがお前を騙したことなんて、一度でもあったか?」
その時の研司の目には清花しか映っておらず、千遥の言葉など耳に入るはずもなかった。
清花と共に玄関まで歩き出した時、ようやく千遥が何か言っていたことを思い出した。
彼は振り返った。「今、何か言った?」「……別に」
研司はそれを聞くと気にかけなくなり、振り向きもせず清花と一緒にドアから出て行った
ドアが閉まる音と共に、千遥はスマホを取り出し、海外行きの航空券を検索した。
幸い、一ヶ月先まで空席が続いていて、争って取る必要はなかった。
千遥は両親からのメッセージを思い浮かべた……「早く海外に来て一緒に暮らそう」という言葉が脳裏をよぎり、瞳がぽつりと寂しげに揺らめいた。
たぶん、一生を海外で過ごすのも、いい選択かもしれない。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)