和紙文届かない婚姻届 · 第3話設定≡

届かない婚姻届第3話

この話は約1617字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

退勤後、私は時計専門店に寄ってみたが、あちこち聞いて回っても「直しようがない」の一言が返ってくるだけだった。

宿泊先である先輩の家に戻り、婚姻届の裏にひまわりの花を描いた。この花は、子供の頃、圭介に教わったものだ。

でも、10輪目を描き終わったら、彼とは一切、縁が切れる。

次の日、私は部長のオフィスを訪ねた。

部長の川島大介(かわじま だいすけ)は父の戦友であり親友だった。父が戦死して以来、彼はいつも私を気にかけてくれ、半分身内のような存在だ。

仕事でもプライベートでもお世話になったんだから、離れるとなれば、彼に伝える必要があった。

私の計画を聞いた大介は、眉をひそめた。

「本当に考えはまとまったのか?圭介君とは長い付き合いだろうに、そう簡単に別れると言うのか?」

私はうなずいた。「圭介とは合いません」

「どこが合わないんだ?ここで、君たちほどお似合いのカップルがいるか?」

主任の小林誠一(こばやし せいいち)が湯飲みを手にやってきて、からかうように言った。

私は苦笑した。圭介と一緒に育ち、兄の関係で、彼は早い時期から私の送り迎えをしてくれていた。

兄が戦死してからは、進んで私の面倒を見てくれるようになった。

彼は出身もよく、個人の能力も強い。出世は時間の問題だ。

私だって、彼ほどではないにしろ、放送局ではそこそこの実績を上げてきた。

周りの人は誰もが早くから私たちをカップルだと思っていた。なのに、彼の心の中には、昔、彼の家でメイドをしていた女の娘――小春が住み着いているなんて、誰が想像できただろう。

「黙ってないでよ。何か誤解でもあるんじゃないか?衝動的に決めちゃだめだよ。圭介君は君のことを――」

「ちょっとちょっと、お前さん、余計なこと言うなよ」誠一がまだ何か言おうとしたのを、大介が遮った。

大介はしばらく考え込んでから、ようやくため息をつき、立ち上がって私の肩をポンと叩いた。「大人になったな。外の世界を見てくるのもいいだろう」

オフィスを出て、ずっと遠くまで離れても、誠一の嘆息が聞こえてきた。「そんなに簡単に別れちゃうのか?」

大介は明らかに呆れた口調で、「その大きな口をなんとかしろよ。拡声器でも持ってきて、官舎に叫んで回るか?」

その日、退勤時間まで圭介は私を訪ねて来なかった。でも、彼が約束した腕時計は、最初から気にしていなかった。

夜、婚姻届の裏に二輪目のひまわりを描いた。

あと八日。

三日目の朝、国内事務所の連絡係が航空券を持ってきてくれた。出発時間はちょうどいい頃合いだった。

私は正式に上司に退職を申し出た。大介がすでに話を通しておいてくれたらしく、全てがスムーズに運んだ。

荷物をまとめ、段ボール箱を抱えて去ろうとした時、二人の同僚が噂話をしているのに出くわした。

「聞いた?向井さんが、幼なじみを私たちの放送局に入れたいんだって」

「採用するって聞いてないよ!アルバイト?」

「ありえないでしょ、あの人は向井さんが一番可愛がっている人だよ。そんな屈辱を受けるわけないじゃないか!」

「そりゃそうだ。必要なら、生田さんが仕事を譲ればいいんだよ」

「もう、やめてよ」その内の一人が私に気づき、慌てて挨拶した。「生田さん、奇遇だね!」

二人はバレたことに気まずそうにしていた。

私は何事もなかったように軽く会釈すると、大きく足を踏み出して去った。

彼女たちがそう思っても仕方ない。小春が戻ってきたばかりの頃、圭介は私に仕事を小春に譲るよう言ってきた。その時はきつく拒否し、そのことで初めて喧嘩になった。

どれだけ圭介がえこひいきしなければ、他人がそんな無遠慮なことが言えるだろうか?

幸い、私の心はすでに平静を取り戻していた。できれば、残りの時間がもっと早く過ぎてほしいと願うだけだ。

手続きは全て完了した。そろそろ荷物をまとめに戻らないと。

荷物を抱えて戻ると、ちょうど小春がその話をしているのが聞こえた。「私が放送局で働くこと、和希さんは怒らないかなあ?」

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)

第4話は公式アプリで

当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。

R37077
  1. 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
  2. アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
iPhone・iPad
で入手
Android
で入手

アプリで第4話を読む

作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。