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少女のまま、風に攫われて第3話

この話は約1962字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

昔、母は竜之介の誕生日になったら買ってあげるって言った。でも、その誕生日が来る前に、彼はいなくなっちゃったんだ。

今になって、そのゆりかごがやっと届いた。そして、ゆりかごの小さな持ち主も、もうすぐ別の形で帰ってくる。

母が、ふと何かに気づいたみたいに顔をあげて、私の方を見た。

私は急いで天井にふわっと浮かんだ。母は、誰もいないリビングをちらっと見て、少し眉をひそめた。でも、またすぐうつむいて、ゆりかごを揺らし始めた。

「竜之介、お母さんはあなたが帰ってくるのを待ってるからね」母はささやいた。「もう二度と、あなたを離したりしないから」

私は母の横顔を見ていたけど、不思議と悲しい気持ちはなかった。

母はやっと、大好きな竜之介に会えるんだ。私っていう代わり者は、もう完全に消えていい頃だよね。

こうすれば、みんな幸せになれるんだ。

3日目の朝。玄関のドアを、まるで叩き壊すみたいに、誰かが激しくノックした。

私がリビングまで行ってみると、母がいらいらしながらドアを開けた。ドアの前には、学校の担任の山本先生が立っていた。

「鈴木さん」山本先生は真剣な顔をしていた。「絢香ちゃんがもう3日も学校に来ていないんです。お電話しても誰も出られなかったので、心配になって来てみました」

彼女は家の中をのぞきこんで、「絢香ちゃんはおうちにいますか?」と聞いた。

母の顔つきが、さっと険しくなった。山本先生が家に入れないようにドアの前に立ちはだかる。「家にいますよ。ただ、わがまま言って学校に行きたくないだけなんです。先生、気にしないでください。あとで、私がよく言っておきますから」

「わがままなんかじゃありません」山本先生は眉をひそめた。「先週、他の生徒から聞いたんです。絢香ちゃんが学校でいじめられているって、服をむりやり脱がされたり、冷たい水をかけられたりしたそうです。どうすればいいか、あなたと相談したかったんですが、ずっと連絡がとれなくて……」

母は、まるで尻尾を踏まれた猫みたいに、いきなり声を荒げた。

「そんな子供の言うこと、真に受けないでください!どうせ絢香が悪いから、自分からちょっかい出したに決まってます!あの子は小さい時から性根が腐ってるんですよ。彼女の弟を殺しておいて、今度は学校で可哀そうなふりをして同情を買おうだなんて、ずいぶんと図々しい子ですよ!」

山本先生の表情が、さらに曇った。「私は絢香ちゃんの体の傷を見ました。どれも新しい傷でしたよ。それに、私が聞いた話では、絢香ちゃんはお友達をかばったせいで、いじめられたそうなんです。学校ではとてもいい子で、勉強もがんばっています。そんな風に言わないであげてください」

「いい子ですって?」母は金切り声をあげた。その声は、廊下中に響きわたるほどだった。「いい子だったら、どうして彼女の弟は死んでしまったんですか?絢香は疫病神で、最初から生かしておくべきじゃなかったんです!」

山本先生は、母のあまりの剣幕に驚いて、ため息をついた。「そんなことをおっしゃるなら、私は教育委員会に連絡するしかありません。絢香ちゃんはいい子で、そんなひどい扱いはやめてください」

彼女はそう言うと、くるっと背を向けて帰っていった。母は後ろから悪態をつき続けていたけど、山本先生の姿が階段の曲がり角に消えると、ようやく静かになった。

ドアを閉めると、母は怒りで全身をわなわなと震わせた。私の部屋の前まで来ると、ドアを力いっぱい蹴り飛ばす。「絢香!あなたのせいで、どれだけ迷惑してると思ってるの!今度は先生まで乗り込んでくるなんて!どうしてあなたが死ななかったの!」

私は母のそばに浮かびながら、そのゆがんだ顔を見ていた。そして、ふと、私が4歳のときに川で溺れたときのことを思い出した。

竜之介と一緒に川に落ちて、私は必死に彼の手を掴んでいた。でも、川の流れがすごく速くて、私たちは離ればなれになっちゃったんだ。

私が助け出されたとき、目に映ったのは、竜之介の冷たくなった体を抱きしめて泣く母の姿だった。そして、私に言った最初の言葉が、「どうしてあなたが死ななかったの」だった。

書斎から父が出てきて、母を止めた。「もうやめろ。近所の人に聞こえてるぞ」

彼は声をひそめて言った。「絢香はもう3日も何も食べてないんだ。部屋に入って、様子を見てやろう」

母は、父の手を振り払った。「様子を見る?あの子がそんな簡単に死ぬわけないでしょ!」

でも、今度は父も引き下がらなかった。ドアを開けて私の部屋に入っていく。母は少し迷ったみたいだったけど、あとからついてきた。

父がベッドに近づいてきて、布団をめくった。部屋に差し込む光が、私の身体を照らした。

そこには、真っ白な私の顔と、どす黒く変色した唇が見えた。唇の端には、乾いた血の跡がこびりついていた……

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