寄生一家と決別、自由を手に入れる第3話
この話は約1768字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
「店員がどんな目でこっちを見てるか分かってんのか!
早くカードを使えるようにしろ!外で恥をかかせるな!」
クローゼットの扉を開ける。「あんたのカード?」冷ややかに問いかける。
「お前のカードは俺のと同じだろ!つべこべ言わずに早くしろ!」
上着を数着、ベッドに放り投げる。「慈善事業をやってるわけじゃないの」
「どういう意味だ?」
「言葉通りの意味よ」
電話の向こうから、和江がヒステリックに割って入る。
「いい気になってんじゃないわよ!結婚したんだから、あんたのお金はうちのものよ!
月に60万も稼いでおいて、50万のネックレスも買えないわけ?
お金を振り込まないなら、帰ってからタダじゃおかないわよ!」
最後まで聞く気にはなれず、通話を切る。ついでにこの見知らぬ番号も着信拒否に設定する。
二つのスーツケースを引きずり出して、自分の衣類や運転免許、大事な書類をまとめ始める。荷物はそれほど多くない。
この家の大部分は、和江の怪しげなサプリメントや、千佳がネット通販で買い漁ったもので埋め尽くされている。私個人のものといえば、数着のオフィスカジュアルと、最低限の日用品くらい。
パッキングを終えて、スーツケースをリビングへと運ぶ。壁には、大きなウエディングフォトが飾られている。写真の中で、誠司は満面の笑みを浮かべて、私はその肩に寄り添っている。
キッチンへ向かって、ハサミを取り出す。ソファの上に立って、ハサミの刃先を写真の中央に向ける。思い切り、切り裂く。
キャンバスがバリバリと鈍い音を立てて破れる。誠司が写っている半分を引きちぎって、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱へ放り込む。私だけの半分は、そのまま壁に残しておく。
手の埃をパンパンとはたく。スマホを取り出し、ある番号にかける。
「もしもし、不動産屋の三浦さんですか?」
「あ、近藤様!お世話になっております!」仲介担当の三浦の声は弾んでいる。
「以前、売りに出したいと相談していたあの人気の文教地区のマンションですが、いつでも内見できるように手配をお願いします」
「本当ですか!?助かります!あそこはかなりの人気物件ですからね」
「条件が一つだけあります」一呼吸置いて、告げる。
「現金一括で支払える方に限らせてください。以前、お子さんの入学に合わせて急いで物件を探しているとおっしゃっていたお客様がいましたよね。その方に打診してみてください。手続きを急いで進めてくれるなら、三日以内に引き渡します」
「それは……」三浦が少し言葉を濁す。「キャッシュ一括で、しかも超短期の引き渡しとなると、価格はかなり買い叩かれるかと思いますが……」
「構いません。相場より400万円下がってもいいです。手続きの特急料金が必要なら私が持ちます。とにかく、スピード重視で」
「分かりました!あのお客様、ずっとこのエリアを狙っていたんです。さっそく今日にでもご案内します!」
電話を切る。このマンションは、私が結婚前に一括で購入したもの。当時、誠司は実家の経済事情が厳しくて、頭金も出せないと言っていた。
「大丈夫、私が払うから」そう伝えたとき、彼は涙を流して感動して、これからは絶対に大切にする、お姫様のように甘やかしてやると誓った。
半年前、入籍した翌日には、和江と千佳が大量の荷物を抱えて転がり込んできた。都会の方が環境が良くて、千佳の就職活動にも便利だからという理由だった。それから、ずるずると半年以上。
三日前にようやく結婚式を挙げて、ハネムーンに出かけるまで、その同居生活は続いた。
スーツケースを引いて、玄関へ向かう。かつて心を込めて整えた我が家を、最後に見つめ直す。
リビングのテーブルの花瓶は空っぽで、ソファクッションも処分した。壁のウエディングフォトは、無惨にも半分だけ。
ドアを閉める。鍵は、植木鉢の下に置いていく。
午後、ホテルのラウンジでコーヒーを飲んでいると、親友からSNSのスクリーンショットが送られてくる。誠司が投稿した、何枚もの旅行写真。
【大切な二人とバカンス。わがままなやつは、一人で反省してろ】というキャプションが添えられている。
写真の中の和江はサングラスをかけて、千佳は花柄のワンピースを着ている。二人とも両手いっぱいにお土産の袋を抱えて、これ以上ないというほどの満面の笑みを浮かべている。
背景は、碧ノ湖の有名な映えスポット。
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