婚約者を奪った女に弁護を頼み込まれました第3話
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莉奈の甲高い声が事務所中に響き、所員たちが何事かとこちらの様子をうかがった。
「慶悟が私を選んだだけでしょう?それなのに、奪ったみたいに責めないで。負けを認めたくないだけじゃない!」
莉奈の声に耳の奥が痛んだが、私は冷静に見返した。
「私はわざと話をこじらせたわけでも、被害者の家族に示談を断るよう吹き込んだわけでもない。そもそも、私にそんなことを決める権限はない。正式に手続を進める前に、条件は何度も説明したでしょう。被害者側が示談に応じる条件は、治療費を全額支払い、莉奈本人が直接謝罪に出向くことよ。
だから、示談が成立するかどうかは、私ではなく莉奈次第よ」
私は入り口に集まった所員たちを見回し、きっぱりと言い切った。
「難しい言葉は使っていないわ。莉奈にも理解できるでしょう?」
パシン!
言い終えるなり、顔から血の気が引いた莉奈は、私の頬を力いっぱい平手打ちした。
「何を考えてるかなんて、全部分かってる!5年前のことを根に持って、仕返ししてるだけでしょう!私が幸せになるのが許せないんでしょ。刑務所に入ればいいって思ってるんでしょう!紗和さんなんて、最低!」
そこへ、慶悟が入ってきた。
泣きじゃくり、髪を乱した莉奈を見ても、慶悟は真っ先に彼女を止めようとはしなかった。私へ目を向け、莉奈をかばうように低い声で言った。
「莉奈は弟のことでずっと不安で、まともに眠れてないんだ。精神的にもかなり参ってる。紗和は莉奈より経験があるんだから、少し言葉を選んで、これ以上刺激しないでくれ」
思わず耳を疑った。
「今、勝手な言いがかりをつけ、手まで上げたのは莉奈よ。それなのに、莉奈を止めるどころか、私のほうに我慢を求めるの?慶悟、5年たっても、どちらが悪いのかさえ分からないの?」
莉奈を見る目が冷え切った。スマホを取り出し、迷わず警察へ電話をかけた。
「それとこれとは別よ。人前で騒ぎを起こし、暴力まで振るった。見逃すつもりはない」
電話がつながった途端、莉奈が飛びかかってきた。スマホを奪って床にたたきつけ、そのまま力任せに踏みつける。
「私の将来をめちゃくちゃにして、慶悟まで奪おうとして、今度は警察に通報して、私を捕まえさせるつもり?紗和さんの思いどおりになんて、絶対させない!」
莉奈はスマホを踏みつけながら、怒鳴り続けた。
浮気相手、略奪女、男を横取りした女。そんな汚名が、様子をうかがっていた同僚たちの間に広がっていく。
慶悟が慌てて莉奈をつかんだ。
「変なことを言うな。俺と紗和の間には何もない」
莉奈は完全に我を失っていた。
「私、見たんだから!弟の事件を口実に、慶悟に近づいてるんでしょう!私から慶悟を奪うつもりなのよ!浮気相手は紗和さんのほうよ!紗和さんこそ、恥知らずな略奪女じゃない!」
莉奈はバッグから写真の束を取り出し、勢いよくばらまいた。
何枚もの写真が宙を舞った。
どの写真にも、私が体を冷やさないようにと、慶悟が何度も上着をかけようとする姿が写っていた。
私はあのとき、確かに身をかわしていた。けれど、写真はどれも、誤解を招く角度から撮られていた。まるで慶悟が身をかがめて私をかばい、私のほうからわざと近づいているように見える。
慶悟は眉をひそめ、小声で莉奈をたしなめた。
「もうやめろ。紗和はパートナー弁護士に昇格したばかりなんだ。こんな騒ぎを起こしたら、事務所のみんなの前で紗和が恥をかくだろ」
莉奈は慶悟の手を振り払い、嫉妬をあらわにした。
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