婚約者が秘書に世紀の結婚式を!?第3話
この話は約2163字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
有無を言わせぬまま、二人は私を車に乗せ、そのまま式場へ向かった。
教会の中では、千万単位の値段がつくジュリエットローズが一面に敷き詰められ、まるで花の絨毯のように広がっており、祭壇の前では、牧師が厳かに結婚の誓いを読み上げていた。
その下で、寧々は高級オーダーメイドのウェディングドレスに身を包み、向かいに立つ颯真をうっとりと見つめていた。颯真もまた、目元にやわらかな笑みを浮かべている。
優雅なピアノの音色が流れるなか、二人が指輪を交換しようとした、その瞬間だった。
颯真の父が勢いよく前へ踏み出し、式を止めた。
その姿を目にした颯真は、一瞬だけ動きを止めた。
けれど次の瞬間には何かを悟ったように、人混みの向こうからまっすぐ私を見据えた。
彼は大股でこちらへ歩み寄ると、私の襟元をつかみ、怒りを噛み殺すような声で言い放った。
「乃愛、お前もたいしたものだな。式をぶち壊すために、わざわざ親に泣きついたのか。お前、この結婚式にどれだけ金と手間がかかってると思ってる?
やっぱり、これまで甘やかしすぎたんだな。だから今になって、俺に逆らう度胸までついたのか」
燃えるような彼の目を見返し、私は冷たく笑った。
言い返そうと口を開きかけた、そのときだった。寧々が慌てて駆け寄ってきて、その場にどさりと膝をついた。
そして私の裾をつかみ、哀れを誘うような目で見上げてくる。
「朝倉さん、私はお二人の仲を壊したかったわけじゃないの。最初から、この式が終わったら……高橋社長と離婚の手続きをして、会社も辞めて、もう二度とお二人の前には現れないつもりなの……」
そこで言葉を詰まらせると、彼女は勢いよく顔を上げた。目は赤く潤み、声は震えていた。
「でも……朝倉さん、私、高橋社長の子どもを身ごもっているの。お願い……」
二人の関係がただならぬものだとは、もうとっくにわかっていた。それでも、こうしてはっきり聞かされると、胸は勝手に痛んだ。
私はその場に立ち尽くしたまま、全身がこわばっていくのを感じていた。手足から力が抜けていき、どう反応すればいいのかもわからない。
気づけば、教会にいた全員の視線が、いっせいに私へ注がれていた。そこにあるのは同情ではなく、面白がるような色ばかり。
ひそひそと囁く声まで聞こえてきた。どれほど愚かな女なのかと、私を嘲るような声が。
私が黙ったまま寧々を見つめていたせいで、颯真は私が彼女に何かするつもりだと勘違いしたらしい。
彼は身をひるがえして寧々を立たせると、自分の背後へかばうように隠し、私の視線を遮った。そのうえで、険しい顔のまま吐き捨てる。
「乃愛、お前は本当に心が狭すぎる。寧々はずっと俺たちのそばにいて、何ひとつ見返りなんて求めなかった。それに今回は、悪いのは俺のほうだ。
愛してるだの何だの言っておきながら、俺のために寧々を受け入れることもできないのか。そのうえ、寧々が夢見てた結婚式まで壊そうとするなんて……本当に性格が悪いな」
そう言い終えるなり、彼は私を乱暴に突き放した。不意を突かれた私は体勢を崩し、そのまま倒れかけた。
けれど颯真の母がとっさに腕をつかみ、間一髪で支えてくれた。
椅子に手をついてようやく立ち直った、その次の瞬間。ぱしん、と乾いた音が教会に響いた。
さっきまでざわめいていた場が、一瞬で静まり返る。
彼の母が、颯真の頬をためらいなく打っていた。しかも、会場の端ではまだ報道陣が配信を続けているというのに、そんなことには目もくれず、彼女は颯真を真正面から指さして怒鳴った。
「颯真、よく聞きなさい。乃愛さんがあなたのために、そして高橋家のためにどれだけ尽くしてきたか、そんなこと誰の目にも明らかでしょう!うちが嫁として認めるのは、乃愛さんただ一人よ。この子のお腹の子だって、うちの家の子として認めるのはこの子だけよ!
藤崎寧々ですって?そんな女をこの家に入れるつもりなら、私もお父さんも、もうあなたとは縁を切るわ!」
まさか両親が私の側に立つとは思っていなかったのだろう。
颯真は痺れたように頬をさすりながら、鼻で笑った。
「二人ともまだ知らないんだな。昨日、乃愛が自分で言ったんだよ。腹の子は俺の子じゃないって。それでもあいつを信じるっていうなら、もう好きにしろ。そんなに言うなら、いっそ俺と縁を切ればいい」
そう言い捨てると、彼は寧々の手をつかみ、そのまま振り返りもせず立ち去った。
教会の中が騒然となるなか、颯真の母はふいに目の前が暗くなったように、その場で崩れ落ちた。
私は慌てて人を呼び、高橋家傘下の病院へ搬送してもらった。
入院しているあいだ、颯真は一度も見舞いに来なかった。私は気が気ではなく、ずっと付き添っていた。
そして退院の日になって、ようやく颯真からメッセージが届いた。
【乃愛、今日は着工の日だ。お前もプロジェクトチームと一緒に現場に来るはずだろ。どこにいる?無断欠勤か?】
私は返事を打ちかけた。
けれどその前に、彼からもう一通届く。
【やる気がないなら、さっさとそのポジションを寧々に譲れ】
私は小さく鼻で笑い、そのまま返信を送った。
【私はもう退職したわ。誰を後任にするかはあなたの自由よ】
送ってから三十秒も経たないうちに、颯真から電話がかかってきた。
通話ボタンを押した瞬間、怒りに満ちた彼の声が、こちらの耳を突き刺した。
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