婚姻関係外第1話
この話は約2116字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
相楽慎輔(さがら しんすけ)と彼の若い秘書が、コンサートで熱烈なキスを交わしているところが撮影され、会場の大スクリーンに映し出された。
美男美女のカップルとして、その映像は瞬く間にネットで話題になり、「いいね!」は百万件を超えた。
その動画には、私の六歳の息子が二人の間に座り、興奮して手を叩いている姿が映っていた。
私はすぐにその動画をSNSに投稿し、キャプションに【超ラブラブじゃん、推せる】と添えた。
すると、慎輔からすぐにビデオ通話がかかってきた。彼は皆の前で、私を「器が小さい、嫉妬に狂った女」だと公然と非難した!
「あれは彼女の元カレに見せるための演技だ!頼むから、これ以上騒ぎを起こすのはやめてくれ!」
内情を知っている友人たちは、私を笑っていた。
皆、私がいつ慎輔の元へ戻るかに賭けているらしい。
でも、今回ばかりは、彼らの思い通りにはさせるつもりはない。
* * *
友人からメッセージが届き、なぜ息子の六歳の誕生日パーティーに来なかったのかと尋ねられた。
送られてきた画像を開くと、息子が夫の秘書に抱きかかえられ、ケーキを切っている姿が見えた。
まるで本当の母子のようだ。
今日は息子の六歳の誕生日。私は家で朝九時から夜八時まで、丸一日準備に追われていた。
かけた電話も、送ったメッセージも、誰からも応答はなかった。
どうやらこの父子は、私を呼ばずに、とっくに他の人と祝っていたらしい。
テーブルいっぱいに並んだ豪華な料理と特別注文のケーキを眺めながら、私は一切れ切り分けて、口に押し込んだ。
深夜十時。父子が帰宅した時の大きな物音で、私はハッと目を覚ました。
二人は両手にたくさんのプレゼントを持っていたが、私を見ると、顔の笑みが消えた。
息子の相楽銘(さがら めい)は、鼻を鳴らして、フンッとそっぽを向いた。
そして、テーブルの上の私が特別に作ったケーキを指差し、「ダサい」と言い放った。
「僕は珠希おばさんがくれた、ウルトラマンのケーキがいいんだ!」
慎輔は銘を庇うように横に立ち、言った。「今日お前を呼ばなかったのは、銘の意思だ。お前のこの前の行動は、少しやりすぎだった」
私は冷めた視線を向けた。
慎輔が言う「やりすぎ」とは、数日前、銘が女の子のプレゼントを奪おうとして、相手が拒否した際に突き飛ばし、私が銘を連れて謝罪させた件のことだろう。
なるほど、これが「やりすぎ」か。
私は頷き、反論する気もなく、立ち上がってテーブルを片付け始めた。
慎輔は銘を連れて手を洗いに行き、濡れた手のまま、後ろから私を抱きしめた。手には小さな袋があった。
「珠希が持たせたんだ。彼女が言うには、子供の誕生日は母親が苦労した日だからって。すごく気の利く子だぞ」
私は袋のロゴを見て、それがノベルティグッズだとすぐに気づいた。
彼は知らないだろう。私はとっくにクローゼットの中でこのブランドの箱を見つけていた。私は待ち続けた。半月前の結婚記念日が過ぎても、プレゼントは届かなかった。
今になって理解した。彼が贈りたかった相手は、私ではなかったのだ。
私が黙っているのを見て、慎輔の声が少し冷たくなった。「あの子を責めるな。前はわざと家を汚したわけじゃない。まだ卒業したばかりの若い子で、世間知らずだが、謝罪の品を渡すよう俺に頼むなんて、よくできた子だ」
また、思い出した。
私が慎輔の異変に気づいたのはいつだったか。
普段は潔癖症の彼が、生理痛で苦しむ秘書の池田珠希(いけだ たまき)を自宅に連れ帰り、慌てて生姜湯を用意し、大量の生理用品を買いに走った。そして、彼女がソファを汚してしまっても、それを許したその瞬間だ。
それは、私が決して得られなかった特別扱いだった。
私は一目でわかった。慎輔にとって、この女性は特別なのだと。
思い出から抜け出し、私は怒りすら湧かないことに気づいた。
「そこに置いておいて。片付け中だから、汚さないようにね」
ガシャン――
銘が外で大きな音を立てた。
慎輔はすぐに私を放し、外へ飛び出していった。
私は銘の足元で砕け散ったケーキを見て、それを片付けてゴミ箱に捨てた。
次の瞬間、銘の甲高い泣き叫ぶ声が響いた。
「この悪女ママ!僕のケーキに触るな!」
私は顔面に飛んできたガラスのコップで頭を強打され、激痛の後、生臭い血の匂いを嗅いだ。
慎輔は慌てて私を支えた。「そのケーキは珠希がくれたものだ。ウルトラマンも付いていた。お前が勝手に捨てるべきじゃなかった」
私はただ可笑しくて、流れ出る血を拭い続けた。
慎輔は私を引っ張り、病院へ行こうと言った。私は拒否しなかった。額は縫合が必要だろう。
外に出た途端、慎輔の携帯が鳴った。彼は電話に出ると、焦りと心痛が混じった声で話した。
私はすぐに相手が誰か察した。
「葵(あおい)、珠希がアパートの外で知らない人がうろついているって言うんだ。ちょっと見てくる。すぐに戻るから......」
私は彼の言葉を遮った。「病院はここから遠くない。私一人で行くわ。あなたは銘を連れて行って」
私はコートを羽織り、背を向けて立ち去った。
病院の入り口にたどり着いた時、私の目の前は真っ暗になった。
最後に、受付に寄りかかり、その場に崩れ落ちた。
医師は、私が妊娠していると告げた。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)