娘の命が危ないのに、夫は幼馴染とサッカー観戦していました第2話
この話は約2883字。当サイトで読める2話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第3話からは公式アプリで読めます。
私は苦しみながらも、司への全ての愛を胸の内にしまい込み、彼とはただの同級生として距離を取った。
もう二度と交わることはないだろうと覚悟を決めていたのに、ある夜、彼は泥酔した状態で寮の下から私の名前を叫んだ。
「夏音!俺が間違ってた!月悠なんて、俺を愛してなんかいなかった!あいつ、俺を捨てて他の男と一緒に海外に行ったんだ!」
その夜を境に、私と司の関係は一気に変化を迎えた。
後日、彼はわざわざ告白の場を用意し、私たちは卒業したら結婚することを約束した。
そして2年後、盛大な結婚式を挙げ、可愛い娘が生まれた。
結婚当初、司は良き夫であり父親であろうと努力していた。
空いた時間を全て使い、娘と一緒に過ごしてくれた。
娘の「あー、うー」といった喃語や、よちよち歩きを見守りながら目を細めていた。
初めて「パパ」と呼ばれたときには、目に涙を浮かべて感動していたほどだ。
ある日、娘が絵画教室で描いた、ぐちゃぐちゃな三人家族の絵を見せてくると、彼はそれを宝物のように大切にしまった。
泥人形を一緒に作っては、二人で笑い転げる日々。
「パパ、見て!これ、私が作った私たち家族三人だよ。上手にできたでしょ?」
娘が嬉しそうに手を叩きながら言うと、司は私の肩を抱きながら優しく褒めた。
「すごいぞ、青。本当に上手だな」
私はそんな二人を微笑ましく見守り、心の底から幸せだと思った。
あの頃は、世界で一番幸せな家庭だと信じていた。
でも、その幸せは月悠が戻ってきたことで壊れ始めた。
司は私と娘を最優先にしなくなり、家を空けることが増えていった。
私の誕生日に姿を見せないどころか、娘の誕生日ですら忘れてしまう始末だった。
娘は期待に胸を膨らませ、食卓で彼を待ち続けた。
けれども、眠気に耐えられず眠りについてしまうまで、司は帰ってこなかった。
目を覚ました娘は、小さな手で私の腕をぎゅっと抱きしめ、悲しそうに聞いてきた。
「どうしてパパ、私の誕生日に来てくれないの?もうずっと遊んでくれないし、お話もしてくれない。学校にも迎えに来てくれなくなっちゃった……
ねえ、ママ。私、何か悪いことしちゃったのかな?パパ、私に怒ってるの?」
胸が締め付けられる思いで、私は娘をぎゅっと抱きしめた。
「違うよ、青は何も悪くないの。パパが……」
言葉を詰まらせながらも、司をかばおうと続けた。
「パパが忙しすぎるだけなの。少し時間ができたら、ママと一緒に水族館に行こうね?」
しかし、水族館に行く約束の日も、司はまたしても来なかった。
月悠が階段で足を挫いたと聞くと、私たちを置いてすぐに彼女のもとへ飛んで行ったのだ。
彼が家に帰ってきたのは翌日の夜だった。
そして、娘の好きなぬいぐるみを手にして、罪滅ぼしをしようとしていた。
「昨日はパパが悪かった。青を置いていくべきじゃなかった。許してくれるかな?」
司が軽く差し出したぬいぐるみを、娘は笑顔で受け取った。
「パパ!これからは、もうママと私を置いていっちゃダメだからね。そうじゃなかったら、もうパパのこと、無視しちゃうよ」
娘のその言葉に、司は笑顔で頷いていた。
しかし、彼が約束を守ることはなかった。
そして思い出すのは、娘が亡くなる直前の懸命な姿だ。
最期の時ですら、彼の来訪を待ち望んでいたのに――
私は司への憎しみを抑えられなくなっていた。
こんな男に、父親を名乗る資格なんてあるわけがない。
司は険しい顔で私を睨みつけ、怒りを込めて言った。
「青がいないって、どういう意味だ?俺が何度も言ったよな、娘をネタに冗談を言うなって!」
私は彼を突き飛ばして叫んだ。
「冗談?私が?司、そういうのはあんたの方でしょ?あんたみたいな人間が父親なんて名乗れるわけがない!
娘が必要なときにいなかったんだから、これからも必要ないわ」
彼の顔がさらに暗くなった。
「ちゃんと言え、夏音。離婚はいいが、青は俺が引き取る」
私は嘲るように笑って言った。
「だったら、自分で地下にいる娘に言いに行けば?」
その言葉に彼は怒りを爆発させた。
「夏音、娘を呪うようなことを言ったら、本当に俺を怒らせるぞ!」
彼は骨壺を一瞥し、鼻で笑った。
「こんなくだらない芝居のために、よくここまで手を尽くしたもんだな」
私は冷たく笑い返した。
「芝居だと思うなら、中を確認してみれば?そこに何があるか見てみなさいよ。
司、まさか怖いんじゃないでしょうね?」
彼は目を見開き、声を荒らげた。
「俺が怖い?そんなことあるわけないだろ。お前、いい加減にしろ!」
彼が骨壺に手を伸ばそうとしたその瞬間、電話が鳴った。
画面に表示された名前を確認すると、彼は急いで電話を取った。
「泣くなよ、月悠。すぐに行くから」
電話を切ると、彼は憎々しげな目で私を見た。
「お前の今の姿を見てみろ。嘘を並べ立てて、まるで狂ってる。
俺が帰ってくるまでに、自分の問題をちゃんと考え直せ」
馬鹿馬鹿しい。以前なら、彼の言葉に自信を失い、自分を責め続けていただろう。
でも今の私は違う。彼のことなんて、もう何とも思っていない。
私は外を走り回り、ようやく青の墓地を決めた。次は埋葬の日取りを考えるだけだ。
家に戻ると、中には見慣れない人影があった。
冷たい声で問いかける。
「彼女を連れてきて、どうするつもり?」
先に口を開いたのは月悠だった。目にはわざとらしい涙が浮かんでいる。
「夏音さん、司は私が落ち込んでたからサッカー観戦に付き合ってくれただけなの。責めないであげて。
私も青ちゃんが急にアレルギーを起こすなんて知らなかった。だから、青ちゃんがどこにいるのか教えてあげて。司、今すごく辛そうだから」
「それが私に何の関係がある?」
私は二人を無視して通り過ぎ、青の骨壺を抱きしめる。そっと唇を当てると、彼女の遺品を片付け始めた。
その様子を見た司が声を荒げた。
「夏音、お前やりすぎだぞ!こんな骨壺にしがみついて、芝居でもしてるつもりか!」
彼は骨壺を掴むと、私に投げつけた。
「こんな縁起の悪いもの、もう二度と出すな!」
骨壺の中身が床に散らばり、青の白黒写真が地面に落ちた。
司は険しい顔で一歩前に出て、骨壺の灰を踏みにじりながら言った。
「今すぐ月悠に謝れ。それなら、これまでのことは許してやる。さもなくば、どうなるか分かってるな?」
私の目に怒りが燃え上がる。
「ふざけないで、司。あんたに父親の資格なんてない!
今すぐ、青の灰から足をどけなさい!」
彼は私を突き飛ばし、さらに怒りをぶつけてきた。
「お前、正気じゃないだろ。呪いの代償がどれほどか、今から教えてやる!」
彼は狂ったように灰を踏みつけながら罵声を浴びせ続けた。
「娘を呪うだなんて、最低だ!こんなものにしがみつきやがって!」
彼が写真を拾おうとしたとき、再び電話が鳴った。
「白羽さん、ご愁傷様です。奥さんと一緒にゆっくりしてください。こちらはもう休暇の手配をしましたので」
司の顔が引きつった。
「桐江さん、何を言ってるんですか?何の弔いですって?」
電話の向こうの人は戸惑ったように答えた。
「青ちゃんが亡くなったことは……白羽さんにとって辛いことだとは思いますが、現実を受け入れるしかありません」
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