娘のお披露目パーティーに姿を現さない夫なんていらない第3話
この話は約1580字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
配信中のコメント欄も、大荒れになった。
【まじか?娘のお披露目パーティーなのに、子供の父親がいなくなったぞ?】
【来たと思ったら即帰宅?これってもう、離婚確定だろ!】
【例の愛人のところに行った、に一票】
【菖蒲さん可哀想すぎる。子供も生まれたばかりだっていうのに】
私は何も答えなかった。
ただ手の中のネックレスを強く握りしめる。
金属の冷たさが手のひらを伝い、心の底まで凍りつかせた。
深呼吸をして、私は会場の中へ足を踏み入れた。
扉を開けると、そこには娘のお披露目パーティーのために用意された豪華な装飾が広がっていた。
掃き出し窓の近くには、わざわざ海外から空輸した紅白のバラが、小さな山のように積み上げられている。
甘味ブースには6段重ねのケーキ。一番上の段には星を抱えた小さな女の子……克哉がオーダーメイドで作らせた朋花の似顔絵チョコが飾られていた。
そして、ゲストの名前が記された席札もすべて克哉が丁寧に書いたもの。
克哉は昔から字がうまく、付き合い始めた頃には私のために筆記体を一緒に練習してくれたっけ。
「朋花のお披露目パーティーは、結婚式より盛大にやるんだ。
お前を芸能界で一番羨ましがられる女にしてやるよ」
克哉はそれを全部実現した。
私は入り口に立ったまま、全てを細部まで見渡す。
夜通しプランナーと企画を練り合っていた克哉の姿。
克哉がケーキの味についてパティシエと真剣に議論していた午後。
朋花を抱いて誰よりも嬉しそうにしていた克哉を見たあの清々しい朝……
すべてが目の前に浮かんでくる。
ただ、今は知ってしまった。それが自分だけのものではなかったということを。
慌てて追いかけてきた海斗が、引きつった笑顔で言う。
「菖蒲さん、克哉はただ幼稚園の保護者会に行っただけですから。すぐそこですし、すぐ戻ってきますから」
もう一人の仲間もすかさず克哉のフォローをした。
「そうですよ!克哉なら分かってますって。それに、朋花ちゃんの大事な日なんだから、克哉が遅れるはずがないでしょう?」
「そうそう!子供をあやすだけだから、30分で帰ってきますよ」
誰もが、まるでライターを借りに行っただけとでもいうように、克哉を正当化していた。
彼らに視線を向けると、私は表情を変えずに言った。
「そうですか、分かりました。では、ゲストの皆さんの対応をお願いできますか?
私は、ここで待ちますから」
自分でも、なんと馬鹿げたことを言ったのだろうと思う。
何を待つというのだろうか?
克哉が戻ってきて、またいい夫を演じ続けてくれるのを?
それとも、あの4歳の子供が事故でできてしまったと言いに来てくれることだろうか。
海斗はホッとしたような表情を浮かべ、慌てて私に飲み物や食べ物を勧めてくる。
私は控室へと向かった。
中に入ると、朋花を抱っこしていた親友の栗原桜(くりはら さくら)が、私の姿を見るなり食ってかかってきた。
「克哉さんはどこなの?今、またどっか行ったって聞いたけど」
桜は私の大学時代からの友人で、駆け出しの時から陰の努力も、克哉との恋に盲目的にのめり込んでいく様子もずっとそばで見守ってくれていた。
「あの男、頭おかしいんじゃないの?娘のお披露目パーティーよりも、よその子の保護者会?」
桜は朋花をベビーカーに戻し、怒りで目を赤くしながら言った。
「昔、あなたが撮影中に転落したとき、あの男は飛行機に乗って病院まで飛んできて、3日間一睡もせずに看病してくれた。
あなたが賞を取った日なんか、彼が、ステージの下で誰よりも泣きながら『金を稼いだことより、お前を嫁にできたことが一生で一番の幸せだ』って言ったんだよ?
その言葉に泣かされた私は、『菖蒲たちって本当に素敵な夫婦』ってインスタにも書いたのに」
桜が悔しさのあまり声を震わせる。
「それなのに、あの男……外で子どもまで作っていたなんて、マジで何なの?」
私は俯いて、スマホを眺めた。
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