和紙文娘のお披露目パーティーに姿を現さない夫なんていらない · 第2話設定≡

娘のお披露目パーティーに姿を現さない夫なんていらない第2話

この話は約1548字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

メイクも完璧で、疲れなどは微塵も感じさせない。

フラッシュが容赦なく焚かれ、激しい光が私を襲った。

メディア関係者たちは血の匂いを嗅ぎつけた鮫のように、瞬く間に押し寄せてくる。

「菖蒲さん!こっちにお願いします!」

「菖蒲さん、宮崎社長との不仲が噂されていますが、事実ですか?」

「宮崎社長に愛人がいるという噂がありますが、ご存知でしょうか?」

私は軽く体を翻し、無言を貫いた。

克哉は私の美しさに一瞬目を奪われたようだったが、すぐに気を取り直して私の腰を引き寄せる。

彼は顔を近づけ、私の耳元で囁いた。

「さすが俺の妻、スターだな。どこにいても注目の的だ。

それにしても、なんで俺が用意したドレスを着なかったんだ?わざわざ海外から取り寄せたのに」

克哉のとぼけたような労いの言葉を聞き、心の中には酸っぱい感覚がこみ上げる。

私の腰を抱いた克哉が数歩進んだ時、彼のスマホが鳴った。

画面を見た彼の顔に、嬉しそうな笑みが浮かんだ。

「どうしたんだ?今日は幼稚園の保護者会じゃないのか?」

すると、電話の向こうから、切迫しているようでいて、甘えた声が漏れてくる。

「もうすぐ始まるんだけど、みんな両親が揃っているのに、自分だけパパがいないって健太が泣き出しちゃって。少しだけ顔を出してくれないかな?」

克哉は呆れたように笑ったが、その口調はとても優しかった。

「二人とも、俺を困らせる天才だな。

分かった。10分で行くから待ってろ」

そう言って克哉は電話を切ると、スマホをポケットに放り込み、駐車場の方へ向かおうとした。

私は咄嗟に彼の袖をつかむ。

頭の中に色々な思いが駆け巡ったが、最後には小さくこう問いかけることしかできなかった。

「克哉。記者も関係者も大勢いるのに、本当に行くの?」

克哉が足を止め、振り返った。その眉には皺が刻まれている。

「当たり前だろ?恵美が困ってるんだから、行くに決まってるよ」

そばにいた海斗も克哉に顔を近づけ、小声で言った。

「克哉、ここで離れるのはまずいだろ。菖蒲さんが到着したばかりで、まだ会場にも入ってないのに」

もう一人の男も頷く。

「そうだぞ。こんな大物たちが来てくれてるのに会場から離れるなんて、有る事無い事記事にされるのがオチだ」

しかし、克哉は二人を一瞥すると、大したことないというように笑った。

「幼稚園の保護者会だ、30分もかからないよ。健太は俺になついてるんだ。俺が行かなきゃ声が枯れるまで泣きわめくだけなんだよ」

克哉は腕時計を見て、先程までの調子で笑い飛ばす。

「俺のフォローは頼んだ。すぐ戻るから」

しかし、私はその場に立ち、袖口をつかんだまま離さなかった。

「克哉。今日、このまま行くっていうなら、朋花には新しい父親を探すから」

克哉は少し呆気に取られた後、笑った。

それは、軽蔑と自信が入り混じった笑みだった。

「新しい父親を探す?そんなのどこで見つけてくるんだよ?

菖蒲、お前今いくつだ?そんな子供みたいな手段で俺を脅すなんて、恥ずかしいぞ」

克哉はジャケットの胸元から、精巧な特注のネックレスを取り出した。

「本当は朋花に直接かけてやるつもりだったんだけど」

そう言って、克哉はネックレスを私の手に押し付け、手のひらを指先でポンと叩いた。

「そんなことは言うな。いい子にしてろ。恵美は恵美で大変なんだよ。それに、あいつはすぐパニックになる。俺が今行かなきゃ、この後だって電話の嵐だ」

そう言い終えると、克哉は私の額に軽く口づけを落とす。

そして、振り返ることもなく去っていった。

私は立ち尽くしたまま、克哉がホテルの外へと消えていく背中を眺めていた。

周りのメディア陣が互いに顔を見合わせたかと思うと、フラッシュが狂ったように焚かれる。

「宮崎社長はどこへ行ったんですか?」

「菖蒲さん!宮崎社長は何か、急用かトラブルですか?」

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